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今、求められる「人的資本経営」への舵取り

掲載日:2023年4月3日人材戦略

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ESG投資への関心の高まり、深刻化する人手不足や、技術革新に伴うDX人材への需要等も相まって、人材を投資するべき資本として捉える「人的資本経営」への関心が高まっています。
大企業に向けては、人的資本開示の義務化も進められていますが、その波はやがて、中小企業にも達するだろうという予測もあるようです。
本稿では、これからの企業が取り組むべき、人的資本経営の内容や事例についてご紹介します。

人的資本経営に対する関心が高まっている背景

人的資本経営とは、企業や組織で働く人材を資本の一部として捉え、彼らが有する「人材価値」を最大限に引き出すことによって、企業の価値を中長期的に高めていく経営を指します。

これまでの経営では、人材を企業にとってのコスト、「資源」の一部であると捉えていました。
一方、人的資本経営では、人材を企業が成長し価値を高めていくための「資本」とみなし、必要な投資を行っていくのです。

また、これまで企業は人材に対して、年功序列や終身雇用等による囲い込みを行ってきました。
しかし、人的資本経営では、組織と人材が互いに選び合うような、自律的で対等な関係へと変化していくことをめざします。

人的資本経営の必要性が高まっている理由としては、以下のような理由があげられます。

  • 企業の市場価値が有形資産(モノ・カネ)から無形資産(ヒト)に移行
    • モノ、カネは企業の有形資産とされ、ヒトは企業の無形資産に入ります。
      そして近年、投資家がもつ投資判断基準において、人材戦略や人材活用等、ヒトという無形資産の重要性が増しているのです。
      特に、グローバル企業においてこの動きが高まっています。
      移り変わりの激しい現代、アイデアや企画力、研究力やブランド力等、すなわち人が作っていく価値が、そのまま企業の価値につながりやすくなっているのです。
  • ESG投資への注目
    • ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。
      環境(二酸化炭素の排出量、環境汚染、再生可能エネルギー)、社会(労働環境への貢献、女性活躍の推進、地域活動への貢献)、企業統治(収益をあげつつ不祥事を防ぐ経営)等、現在社会を取り巻く問題を解決し、社会的意義のある事業に取り組みつつ、成長を維持する企業に対して投資していく動きは、欧米を中心に年々拡大しています。
      それに伴い、企業には人的資本情報を積極的に開示することが求められるようになってきているのです。
  • 深刻化する人手不足
    • 現在の日本では、少子高齢化による生産年齢人口の減少や、働き方の多様化(人材の流動化の加速)による人手不足の問題が深刻です。
      一人ひとりの事情や資質、才能を見極めて「個」を生かした働き方を承認することで、人材の価値を最大限に引き出していくのが、人的資本経営の本質。 人材を安定確保し、企業を成長させていくためにも、人的資本経営が重要視されているのです。
  • DX人材の不足
    • DX人材とは、デジタル技術やデータ活用、プロジェクト進行のスキルを有し、社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を担う、多様な人材の総称です。
      国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界のデジタル競争力ランキング2022」によると、日本における「人材 / デジタル・技術スキル」の分野は、全63の国と地域の内、62位と大変低く、日本におけるデジタル技術・スキル不足が問題になっています。
      今後、更なる激しい変化が予想されるグローバル市場の中で、企業が競争優位性を築くためにもDXの推進は必須でしょう。
      そのためにも、DX人材を採用し、育てていくことが重要な課題なのです。

人的資本の情報開示について

前述のように、人的資本経営は欧米から広まりました。
2018年には、人的資本に関する情報開示のガイドラインである「ISO30414」が発表されています。
その後、投資家における人的資本情報開示のニーズが高まっていることを受けて、2020年8月、米国証券委員会(SEC)が米国の上場企業へ人的資本情報の開示を義務化しました。

日本では、経済産業省による「人材版伊藤レポート」が2020年に公開され、そこから、人的資本情報開示について注目されるようになりました。

「人材版伊藤レポート」とは、2020年9月に経済産業省が発表した報告書「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の最終報告書の通称です。
ビジネス環境の変化や、新型コロナウイルス感染症拡大等、世の中が大きく変わり続ける中で、企業の存在意義に立ち戻り、人材戦略と経営戦略を行う方法がまとめられています。

その後、金融庁は23年度に、「人的資本、多様性に関する開示、従業員の状況」等、人的資本に関する一部の情報を有価証券報告書に記載することを義務付ける方針を打ち出しました。
人的資本に関する情報開示の流れは大企業からスタートし、やがては中小企業にも達するだろうと予想することができます。

有価証券報告書に記載することを義務付けられる、人的資本の項目については以下の内容があげられます。
これらの項目に照らし合わせ、人的資本に対してどれほど投資できているかを確認し、情報整理を行うことで、自社の人的資本における強み、弱みを改めて確認することができるでしょう。

<人材育成>

  • 従業員の育成
  • 後継者の育成
  • 研究者の確保
  • 人材を中長期的に維持するためのシステム整備

<多様性>

  • 性別や人種ごとの従業員比率、産休・育休の取得率
  • 多様なアイデンティティや背景をもつ従業員・顧客を受け入れられる体制

<健康・安全>

  • 従業員の欠勤率や、労働災害の発生率
  • 従業員の精神的、肉体的健康維持に対する取り組み

<労働慣行>

  • 児童労働 / 強制労働
  • 賃金の公正性(給与総額の男女比)
  • 福利厚生(福利厚生の種類)
  • 組合との関係

<エンゲージメント>

  • 従業員の満足度(従業員が労働環境や待遇、働き方や仕事内容等に満足し、やりがいをもって働けているか)

<流動性>

  • 適切な人材の確保と定着
  • 採用にかかっているコスト
  • 離職率

<コンプライアンス>

  • 法律を守っているかどうか
  • 社会的な規範や倫理観に基づいた企業活動ができているか

企業による取り組み例

では、人的資本経営が企業の中でどのように行われているか、具体的な例をいくつかご紹介したいと思います。

事例1:大手医療機器メーカー

ある大手医療機器メーカーでは、「戦略的重要性の高い新規スキルの獲得」「新しいことへの挑戦と成長」「グローバルリーダー人財の育成」「多様な人財の活躍」について、具体的な取り組みを設定。
持続的成長のために、戦略的な人への投資に注力しています。

この取り組みの一つとして、2020年より次世代経営人財の要件を決めて、世界中の拠点から約30人を選抜し、1年間の研修を行う取り組みを開始しました。
研修に参加した卒業生一人ひとりについて、強み、育成ポイント、本人の希望を踏まえて、今後のキャリアを検討しています。
このような選抜→育成→評価→活用というサイクルは、若手層へも普及していく流れです。

事例2:大手銀行持株会社

ある大手銀行持株会社では、社員の内発的動機付けや、「ウェルビーイング」が人的資本経営のベースにあると考え、社長がパーパスに関するオンラインライブを26回実施して、計1万4000人の社員が対話に参加しました。

ウェルビーイングとは、心身が健康で、社会的にも充実し、多面的に満たされている状態を維持できることです。
これにより、社員のパフィーマンスの向上や離職率の低下、モチベーションアップ等が図れると考えられています。

その他、課長層900人、店部長、次長1,000人に対して、社員が直接コミュニケーションを取り、執行役と従業員との対話の場を30回以上設けることで、経営層と社員の対話の機会が増え、経営層が多様な声を吸い上げられるようになったそうです。
取締役会や経営会議では社員の声を取りあげて、要望事項への対応を決めたうえで、開示していく取り組みを行っています。

おわりに

経営の神様と称えられた松下幸之助氏の名言のなかに、「企業は人なり」という言葉があります。

深刻化する人手不足や技術革新によって変革していく今の世の中では、優秀な人材の採用・育成が必要不可欠です。
なぜなら、企業は結局のところ、そこに所属している人によって成り立つものだからです。
積極的に人材の才能や可能性を引き出し、それを企業のために活用していくことは、企業のためだけでなく、広く社会全体を良くするための取り組みともいえるでしょう。
人的資本経営にポジティブに取り組むことで、中長期的な目線から、企業の成長をめざしていきましょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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