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名監督に学ぶ「逆境を味方にする」マネジメント

掲載日:2021年7月19日人材戦略

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ビジネスの場において百戦百勝をめざしたとしても、物事は簡単に進まないことが多く、いついかなるときにどのような「逆境」が訪れるか分かりません。
組織やチームの運営において悩み、苦しむ状況となったときには、スポーツ界の名監督の発想と行動からヒントを得ることができます。
本稿では、プロ野球のフィールドで苦難を乗り越えた名監督から、逆境を味方にするマネジメントを学びます。

個性を引き出すために努力するのがリーダー

「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない」
これは、不断の努力を積み重ねて一本足打法を編み出し、世界のホームラン王へとのぼりつめた、王貞治氏の言葉です。
この言葉からは自分に厳しい考え方を持っていたことが容易に想像できますが、自身の成長を突き詰めていくうえでは、非常に示唆に富んだ言葉だともいえます。

しかしリーダーとして、自分以外の複数の人間をまとめ、ともに同じゴールをめざし組織として結果を出すには、自分一人の努力だけではどうにもならない壁にぶつかるものです。1995年、ダイエー・ソフトバンクの監督に就任した頃の王氏が、まさにそうでした。

王氏は何年もBクラス(リーグ4位以下)に低迷していたチームの立て直しを期待されて招聘されましたが、1年目はリーグ5位、2年目は最下位に沈んでしまったのです。
この年の5月には、開幕から最下位に沈むチームに憤慨したファンから監督、選手が乗るバスに生卵を投げつけられる事件が起こっています。

このとき、王氏は選手に向かって、「卵をぶつけられるような野球をしているのは自分たちだ。だからこそ、ぶつけられないようにしよう。ファンに喜んでもらおう」と話したそうです。

卵をぶつけられた怒りをファンに向けるのではなく、その原因を作った自分たちの不甲斐なさこそを悔やみ奮起しようと、選手を励ます契機に活用したのです。
ただ、その一方でチームに一体感が生まれてこない原因が、「自分」にあるのではないかと考えるようにもなっていきます。

当時の様子を知る記者によると、監督就任当初の王氏は、周囲を寄せ付けないオーラのようなものをまとっていたといいます。王氏自身も「選手が求めているものと、私が求めているものとの違いを感じた」と語っています。

このズレを修正してチームとして機能するには、自分から選手へ歩み寄る必要がある。そう考えた王氏は、選手たちへ積極的に語りかけるようになっていきます。
「勝てば勝つほど、素晴らしさを知れば知るほど、『よし!またやろう』という気持ちになる」と語る王氏は、優勝経験のない選手たちに、勝つことの大切さを根気強く語りかけていったのです。同時に、選手一人ひとりにも目を向けるようになりました。

「人の力には、個人差があるし、個性もある。一人ひとり顔つきも違うように、性格も違う。私も選手諸君の個性を引き出すため、いろいろと努力するつもりだ」
選手の個性を把握したうえで、その個性を活かせる配置を行うことがリーダーの役目であることを意識し、地道に実践した結果、就任5年目でリーグ優勝を達成。常勝チームの礎を築くことに成功しました。

自分の時代はこうだったという管理職は、リーダー敗北ともいえる

王氏同様、自分を厳しく戒めていた野村克也氏は、その理由を「組織はリーダーの力量以上に伸びない」からだと言っています。だからこそ、己に対して厳しく、常に知識や情報の収集に最大限努めて、自らを成長させることにこだわったのでしょう。

ただ、野村氏が名監督たりえたのは、絶えず自身を磨き続けただけでなく、選手の能力を引き出すことにも長けていたからです。
「野村さんがいなかったら今の自分は存在していない」と語る江本孟紀氏は、野村氏の育成の上手さについて、著書やインタビューなどで指摘している一人です。

江本氏は、こう解説します。
「相手の力と自分の力を比べて、自分の力が足りなかった場合には『何か工夫しろ』、投げるだけでなくボールを受ける立場になって考えろ、と。(野村さんは)視点を変えるのがとても上手だった。弱点をどうカバーするか、力の差をいかに埋めるかを常に考えさせていた」

相手の立場に立って物事を考えるのは、ビジネスにおいても重要なことです。売る側の立場からのみ市場を見ている限り、マーケットインの発想にはたどり着けないことでしょう。また、自分の理想を押し付けてばかりでは、部下はついてこないかもしれません。

しかし、人の思考や視点を変えるのは難しいものです。その点について、野村氏は「監督は選手の『気づかせ屋』でなければならない」と言っています。
楽天の監督時代、「どう見ても強打者ではない」のに、ホームランもヒットも両方打ちたいと二兎を追い、伸び悩んでいた選手に対して「捨てる勇気を持ってみれば」と声をかけたそうです。その結果、自身の強みに気づき、ホームランへの強いこだわりを捨てることができた選手は見事、首位打者を獲得しています。

これに関して、野村氏は次のように語っています。
「自分のことを知っているようで、意外に分かっていない人が多い。憧れるのは結構だが、遠くに飛ばす能力、速い球を投げて三振をとる能力は天性のもの。それを理解せずに間違った方向へ進んでいく。そうならないように気づかせるのが監督やコーチの仕事」

ビジネスシーンに置き換えてみても、人それぞれ、性格や力量などは異なり、個性に応じて向き不向きがあります。
ただ、人は自分の可能性を大きく思い込む場合もあり、自分自身を客観的に把握することはなかなか難しいものです。

自分の許容範囲を超えたことに挑戦すること自体は、成長の機会にもなるので、すべてが悪いわけではないでしょう。ただ、力量とかけ離れたことや、全く向いていないことにこだわり続けてしまうと、結果が出ないことで自信を失い、成長することをあきらめてしまう恐れもあります。
そのため、部下の個性をしっかりと見極め、「適切な努力」ができるように導くのが、リーダーの役割だといえるでしょう。

ただし、野村氏は「こうしたほうがいいという言い方はしません。こういう方法、考え方もあるよとささやく」のだと、気づかせ方のコツを披露しています。
「自分の時代はこうだった、なぜ、できないと叱るリーダーや管理職がいる。それを言い出したらリーダー敗北だね。わしらの時代はこうだったという価値観を、部下に押し付けるのはよくない。下がついてきませんよ」
だからこそ、「正しく、考えさせる」のが上に立つ人間には大切なのだといいます。

逆境を味方にするために心掛けたいこととは

その他、勝利を導いた名監督には、逆境を乗り越えるための名言や発想が数々あります。

プレーヤーとして2年連続の三冠王を獲得するなど大活躍した後、中日ドラゴンズの監督に就任して、1年目にリーグ優勝を成し遂げた落合博満氏は、こう話します。
「一番ブーイングを受ける場所、一番嫌な役割っていうのは、監督がしなきゃいけない。『何でこんなピッチャー使うのか』って、罵声を浴びるのは監督だけで十分」

ビジネスの場に置き換えれば、予算数字が達成できず、経営陣から叱責される場において、リーダーは、その責任をメンバーや部下のせいにはしてはいけない、ということになるでしょう。

今の時代、叱咤するだけでは、部下は動きません。落合氏は、「本当にその選手を育てたいと思ったら、『負けるなら負けてもいい。この試合はおまえに任せた』といってやるのが大切」とも話しています。
厳しいときこそ、部下の成長が次の一手になるものです。リーダーは、これを理解したいものです。

また、「闘将」として有名な星野仙一氏は、次のような名言を残しています。
「迷ったら前へ。苦しかったら前に。つらかったら前に。後悔するのはその後、そのずっと後でいい」
今、まさに逆境の立場にあるリーダーには、この言葉が、特に刺さるかもしれません。

逆境とは、ひとつの「壁」に違いありません。ただ、この壁を乗り越えれば、リーダー自身の成長にもなるうえ、組織が成果を出せるチームに進化することにもつながっていきます。
リーダーにとっては、どんなときも「前へ」と思う気持ちが、逆境を味方にできる経営になっていくのです。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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