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中小企業における「デジタル人材」の育成

掲載日:2021年5月24日人材戦略

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経済産業省が2018年9月に「DXレポート」を発表したことを機に、多くの企業が注目するようになったデジタルトランスフォーメーション(DX)。その後、新型コロナウイルスの感染拡大によるビジネスのオンライン化が進んだこともあり、DXに取り組む企業は増えているようです。
そこで課題の一つとなっているのが、社内のデジタル化を推進する「デジタル人材」の確保と育成といえます。
本稿では、どのようにすればデジタル人材を確保・育成できるのか、その対応策を考えます。

「デジタル人材」とは、「DX人材」と理解すべし

デジタルトランスメーション(DX)は、企業が、これからの時代を生き残るために必要不可欠な経営戦略の一つといえます。
DXという言葉は、日々、メディアを賑わしていますが、これは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、経済産業省が定義しています。
(経済産業省「DX推進ガイドライン」より)

つまりDXの本質は、デジタル技術やITを使いこなすことだけではなく、「デジタルを戦略的に使って、経営を『変革』すること」となります。
したがって、ここに関わる「デジタル人材」とは、パソコンスキルが高く、ネックワークに精通しているだけでは物足りません。それは当然のこととしながら、さらに、「自社の課題が何かを理解していて、それを、デジタルを活用することで解決に導ける人」でなくてはならないでしょう。すなわち、「ビジネスとデジタルの双方の視点を持って経営改革できる人」といえます。

こう考えていくと、企業が自社の成長・発展のために得るべきは、単なる「デジタル人材」ではなく、「DX人材」と考えた方が良いかもしれません。
ましてや、コロナ禍の影響を受け生存競争が一層激化している昨今においては、経営や事業の変革、そして競走力強化を目指して、より優れた「DX人材」を確保・育成して自社の武器にしたいものです。

「DXの重要性」を全社員に認知させる

それでは、どのようにしたら「ビジネスとデジタルの双方の視点を持って経営改革できる人」を確保・育成できるのでしょうか。
ポイントとしては、以下が考えられます。

  1. (1)経営層がDXの重要性・必要性を認識する
  2. (2)DXへの取組みのビジョンを明確にする
  3. (3)そのうえで自社の「デジタル人材像」を定義する
  4. (4)設定したビジョンや人材像を全社員で共有する
  5. (5)社員をレイヤーに分けて育成する

上記(1)のように、まず大切なことは、経営層がDXの重要性・必要性を認識することです。企業ですから、社員からの提言があったとしても、トップがDXの可能性を何もわかっていなければ、デジタル人材の確保・育成が進むとはいえないでしょう。

さらに(2)のように、経営層が自社において、デジタルをどのように活用して、何を目的にどんな結果を目指していくのかといったビジョンを明確にしていかない限り、戦略的なDXは進まず、デジタル人材を得ることは難しいかもしれません。
それだけ、トップの意識が大切といえます。
この上で、自社が実施しようとするDXのために、(3)のように求める「デジタル人材像」を定義することによって初めて、デジタル人材の確保・育成のスタートラインに立つことになります。

例えばある会社では、DX推進に欠かせないデジタル人材を「ABCD人材」と定義しました。
「ABCD人材」とは、以下の要素を持つことを意味しているそうです。

  • A:AI(AI等の概要と事業への適用例を把握している)
  • B:Business intelligence(ビジネスを理解し、データを可視化できる)
  • C:Cyber security(サイバー攻撃のリスクや対処法を熟知している)
  • D:Design thinking(デザイン思考により課題抽出や解決ができる)

いずれもDX推進には不可欠な要素ではあるものの、この会社では、すべてをハイレベルに備えた人材を育成するというより、必要な分野で4つのどれかを活かせる人材を育成することをめざして教育計画を練っています。

ただ、ある調査では「一部の人材や部署にだけにDXを任せてしまい、多くの社員がDXに対して当事者意識を持っていない企業では、成果につながっていない」という結果が出ているそうです。
つまり、デジタル人材を確保・育成するためには、「めざす人材像」を明らかにするだけでなく、成し得ようとするビジョンとともに、(4)のようにそれを全社員で共有しなければ、うまく進んでいかないということになるでしょう。

こう考えると、デジタル人材を確保・育成していくためには、デジタルの素養がある一部の人材だけでなく、幅広い層への教育も、同時に実施していくことが大切だといえます。

3つのレイヤーに分けて育成

自社にデジタル人材を確保・育成するために効果的なのは、レイヤーごとに育成していくことです。
例えば以下のように、「全社員」「ビジネス側でDXを主導する人」「デジタル技術を実装する人」の3つのレイヤーに分けて教育を推進していく方法となります。

まず、「全社員」に対しては、基礎的な研修を行い、デジタル意識を底上げします。
当事者意識をもってもらい、デジタルを恐れ過ぎないよう伝えると良いでしょう。具体的な方法としては、他社の事例を紹介したり、デジタル活用によって自社の将来がどうなっていくかという勉強会を開催したりすることがあげられます。集合研修の時間が取れなければ、オンライン研修の活用も有効かもしれません。

「ビジネス側でDXを主導する人」の中には、経営層も含まれますが、次世代を担う若手・中堅をメインにするのも良いでしょう。どんなデジタル技術やツールを使うと、自社の業務がどう変わるのか、実践しながら身につけることがポイントです。
自社の課題をピックアップし、実際にデジタルを活用して解決していく場を与えると効果的かもしれません。ただしそのためには、従来の評価軸にとらわれずにチャレンジさせるような配慮があると、より良いでしょう。

「デジタル技術を実装する人」は、いわゆるエンジニアを含み、既にある程度のデジタル知識と実践力を身につけている層で、従来の「IT人材」に近いイメージです。スキルが足りない人材しかいない場合には、候補者を募り、技術を磨けるよう、外部研修への参加を促すのも良いかもしれません。
「そんな人材は、社内にまったくいない」という場合でも、「パソコンが好き」「日常でもスマホを活用している」という若手は少なからずいるはずです。そうした社員に、トップ自ら担当に指名して、推進の役割を担ってもらうのも一策でしょう。
いかに重要な任務であるかを期待感とともに伝えれば、意欲的に取組んでくれる可能性は高まります。

それぞれの教育がある程度進んだら、自社のビジョンや具体的な課題解決に向けて、「ビジネス側でDXを主導する人」と「デジタル技術を実装する人」が、チームを組んでプロジェクトを立ち上げるように考えていきます。
こうすることで、「デジタルを戦略的に使って、経営を“変革”すること」というDXの目的が進んでいきますし、このプロジェクトに参加するメンバーが、お互いが切磋琢磨する中で、「ビジネスとデジタルの双方の視点を持って経営改革できる人」というデジタル人材へと成長していく可能性が生まれてきます。

コロナ禍によって、オンラインでのやり取りが急速に進む中、デジタルの必要性は多くの経営者が痛感していることでしょう。
この状況を好機と捉え、社内におけるDXを推進し、そのために欠かせないデジタル人材の確保・育成に注力することが、将来の経営を左右するかもしれません。
これを機に、自社のDX戦略に合った人材育成の計画に取組んでみてください。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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