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困難な時に効く、“信頼”と“共感”のリーダーシップ

掲載日:2020年6月12日事業戦略

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新型コロナウイルス感染予防対策により社会経済活動の自粛が続いた結果、多くの企業が業績悪化に苦しんでいます。この、未曽有ともいえる困難な環境を乗り切るために、経営者や管理職には、これまで以上に強いリーダーシップが求められると考えられます。本稿では、そのあり方を考えてみます。

「利害・上下」の関係から、「信頼・共感」の関係へ

リーダーというと、かつては地位や立場を背景に、上司が「利害」や「上下関係」に基づいて、メンバーを引っ張るというのが一般的でした。1人の強力なリーダーが組織を導き発展させていくという、「トップダウン」のスタイルです。

特に高度経済成長期のような右肩上がりの時代には、そうしたメンバーを管理するスタイルが適していました。一つの目標に向かって、画一的に働くことが効率的で生産性が高かったからです。
メンバーは不満があっても、給料が増え、昇進も期待できたことから、車や家を買うといった物理的欲求を満たすために頑張り、リーダーについていきました。いわば、従属的で受動的な姿勢だったといえます。

しかし、いまの時代は違います。低成長の現代では、同じスタイルが通用しにくくなっているのです。昇給や昇進が望みにくい上、人々はあまり物理的欲求を重視しなくなってきています。またコロナ禍によるテレワークの経験によって、ビジネスパーソンの「働き方」は、大きく変わろうとしています。

こうした時代には、物理的欲求以上に、「心理的欲求」に応えることが大事になります。心理的欲求とは、いわば、働くことへの満足感や意欲ですが、そのためには、地位や立場による利害・上下関係ではなく、リーダーは、メンバーとの「信頼」・「共感」による関係を構築する必要があるのです。
リーダーの考えや姿勢に対しメンバーが信頼を抱き、心から共感を覚えれば、メンバーは、「このリーダーなら、ついていきたい」と思うようになり、能動的、主体的に動くようになっていきます。つまり、「利害」ではなく「信頼」、「上下」ではなく「共感」。これによって、メンバーを導くことが大切だといえるのです。

言うまでもなく、メンバーに信頼・共感してもらうためには、リーダー自身がメンバーを信頼し、共感しなければなりません。ここで大切なことは、「メンバーを信頼する」ということは、「メンバーを信じ、任せ切ること」であると理解すること。つまり、部下に任せた仕事に対してリスクを取り、全責任を持つ。この覚悟を持つ必要があるのです。
自分自身ではリスクをとらないで、メンバーが失敗したらその責任を押しつけるようでは、信頼関係は構築できません。絶対にメンバーを守ること。その安心感があるからこそ、メンバーはリーダーの信頼に応えようとして、困難に挑戦してくれるといえるのです。

ダイバーシティを重視し、チーム全体で助け合える関係づくりを

また、リーダーには「問題解決力」が求められます。この問題解決力というのは、リーダー一人で何でも解決するという意味ではありません。そもそもそんなことは不可能といえるでしょう。特に変化が激しく、先行き不透明な現代においては、リーダーが培ってきた経験や知識だけでは太刀打ちすることは難しいと考えられます。
真の意味で問題解決力があるリーダーとは、力を貸してくれる、サポートをしてくれるメンバーがたくさんいるリーダーです。

そのためには、あえて「弱み」を見せることも大事です。メンバーに助けを求める……。そんな格好悪いことはできない、プライドが許さないなどと見栄を張ってはいけません。弱みを開示することで、信頼するリーダーが困っているとなれば、メンバーはヤル気を出して助けてくれます。
そして、リーダーが弱みを開示すれば、メンバー各人も「弱みを見せても大丈夫なんだ」と理解して、和やかな空気がチーム内に醸成されていきます。誰にも強みと弱みがあるものです。それぞれが弱みを認め、補完し合えるようになれば、チーム全体が強くなっていくでしょう。

また、チーム内で互いに助け合うためには、多様なメンバーがいるほうが有利であり、そのためにリーダーは、メンバー1人ひとりの個性を尊重することが必要だといえます。つまり、ダイバーシティの重視です。
年齢や性別、経験に関係なく、異なる視点、考え方、価値観を認める……。変化の激しい現代では、メンバーが画一的な思考を持っていては、とても、対応しきれません。大事なのは複眼的な見方や考え方であり、それには多様な人材が必要です。多様な人材が集まることで、豊富なアイデアが生まれ、現状を打破、危機を突破することにつながるのです。

新型コロナ対策に成功する世界の女性リーダーに共通するもの

ここまで述べてきたことについて、実は、その有効性を実感する場面を、私たちは最近、目のあたりにしています。それは、新型コロナウイルスに立ち向かう世界のリーダーたちの姿です。そこでは、リーダーとしての力量の差があらわになりました。

特にいま、コロナ対策に成功したとされるリーダーに、女性が多いことが注目されています。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、台湾の蔡英文総統、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、フィンランドのサンナ・マリン首相、ノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相、アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相らが代表的です。

彼女たちがコロナ危機にうまく対処できた要因は様々指摘されていますが、共通点の一つは、「コミュニケーション力」の高さです。特に、「共感力」。一般的に女性は、男性に比べて人の感情を読み取る力に長けており、相手の気持ちを察したり、同情したり、不安に寄り添ったり、励ましたり、称賛したりといった感情表現が豊かといわれています。彼女たちが国民に真摯に語りかける言葉、メッセージは、さまざまな立場の人の心に響きました。
デンマークのフレデリクセン首相、ノルウェーのソールバルグ首相、フィンランドのマリン首相らは、テレビを通じて子ども向けの記者会見を開き、多くの共感を集めています。

彼女たちは同時に論理的で、行動力もあります。物理学者でもあるドイツのメルケル首相は、データに基づいたわかりやすい説明を行い、国民の納得を得ました。台湾の蔡英文総統は早期に中国からの入境を制限するなど厳しい措置を徹底したほか、マスクの安定供給体制を短期間に整えることに成功しました。

こうした彼女たちの姿勢や行動が、国民からの信頼と共感を集め、広く支持されたのです。まさに、リーダーとメンバーの信頼と共感による関係構築の重要性を体現しているといえるのではないでしょうか。
彼女たちの共通点をもう一つあげるとすれば、「チームワーク」です。リーダー1人の力ではとうてい解決できない困難に対し、専門家や科学者の言葉に謙虚に耳を傾け、助言を積極的に受け入れる姿勢。これは先ほど述べた、リーダーが弱みを開示し、メンバーに助けを求めることの大切さに通じます。

危機にこそ問われるリーダーの存在意義と真価

最後に、リーダーの存在意義が最も問われるのはいつでしょうか?それは危機のときです。チームが困難を乗り越えられるか否かというときにこそ、リーダーの真価が問われます。

ただピンチのときは、リーダーにも明確な正解が分からず、不安を抱えてしまうものです。だからこそ、チームが一丸となり、正しい方向の突破口を見つけ出さなければなりません。
そうしたときに、利害や上下関係によるつながりは脆いものです。いざとなればメンバーは逃げてしまうかもしれません。
しかし、信頼と共感で結ばれた強固な関係であれば、メンバーはリーダーのため、そしてチームのために主体的に動いてくれるはずです。

新型コロナウイルスの完全な収束は見通せず、またポストコロナ時代の「ニューノーマル」(新常態)では、これまでとは違う世界になると予想されています。
それゆえに企業のトップやリーダーは、目まぐるしく変化する経営環境に素早く対応していくことが求められます。チーム力を最大限に引き出す、「信頼」と「共感」でメンバーを導くリーダーシップのスタイルは、そのための強力な武器の一つになるでしょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)

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