データの取り扱いに変化の兆し。「不正競争防止法」改正について
掲載日:2019年8月26日 事業戦略
不正競争防止法は、事業者間の競争をより公正にするため、商標や商号の保護、営業における秘密保持などを目的とした法律です。しかし、インターネットの発展・普及に伴い、従来の制度では不正競争に該当するか否かの線引きが難しいものが出てきました。
この問題を解決するため、2018年に不正競争防止法が改正され、2019年7月1日に施行されました。本稿では、不正競争防止法の改正内容や今後の予測される動向などについて説明します。
不正競争防止法とは
もし会社のPCやメモリを外に持ち出して、そこから機密情報が漏れたり、友人との会話でついうっかり会社の機密情報に関わる話をしてしまったりしたら…。そのような場合、不正競争防止法に抵触したとして損害賠償を請求される恐れがあります。
不正競争防止法は、その適用範囲に柔軟性があることが特徴です。例えば、長年親しまれてきたマスコットキャラクターやぬいぐるみのように商標登録されていない商品であっても、それをコピーした商品を販売すると「形態コピー」とみなされることもあります。この場合、コピーされた側の企業は、コピーした側に対して民事訴訟を起こし損害賠償を求めることが可能です。また、刑事事件として訴訟になると、違反企業に3億円以下の罰金が課される可能性があります。
従来の法制度で生じた限界点
IoT、ビッグデータ、AIなどの技術革新に伴い、データはこれまで以上に価値創出の源泉となりました。しかし、データは複製が容易であり一度コピーされてしまうと簡単にその価値を喪失します。そこで、「営業秘密」に該当しない一定のデータについても知的財産として保護するために、2018年5月、不正競争防止法の改正が発表され、「限定提供データ」という概念が追加されました。
限定提供データとは
従来の不正競争防止法では、「営業秘密」に関しては規定を設けていました。しかし、「営業秘密」ではないものの、社会に広く流通させたくないデータは少なくありません。例えばPOSシステムによって収集された商品の売上データなどは、データ分析をする企業が加工を施し、各メーカーに提供する流れになりますが、このデータが広く漏洩すると各メーカーの戦略を阻害する要因になりかねません。
また、売上データに留まらず、農産物の栽培データや船舶の航行データ、車両の走行データなど多岐にわたります。改正不正競争防止法では、これらを「限定提供データ」と規定し、不正に取得・使用・開示されないよう保護の対象とすることにしました。
限定提供データの定義
「限定提供データ」はIDおよびパスワードでの管理を必要とし、相手方に業として提供するデータのことを指します。これには以下の3つの要件すべてを満たす必要があります。
- ①業として特定の者に提供する
- ②電磁的方法により相当量蓄積される
- ③電磁的方法により管理される
中小企業が気を付けたい、改正不正競争防止法の一例
改正不正競争防止法では、法律に違反した場合、その内容によっては刑事罰が科される恐れがあります。また民事上の措置として、差止めや損害賠償、信用回復措置などを請求される可能性もあります。
例えば、A社に従事する社員が兼業でB社にも勤めることになった場合、B社は兼業の事実を知らずに社員からA社の限定提供データを受け取り、そのデータを含んだ商品を開発してC社に販売したとします。このような場合、B社は不正競争防止法に抵触する恐れが出てきます。
また、取得した限定提供データと自社で収集したデータを統合して新たなデータベースを作成したり、限定提供データを用いた営業(販売)活動を行ったりすることも、不正競争防止法に抵触する可能性があります。
小規模企業も情報管理を厳密に
不正競争防止法は適用範囲が柔軟な分、思いもよらないかたちでトラブルに発展する恐れもあります。逆に、「本来であれば価値あるデータが、野放しだったためにいつの間にか模倣されてしまう」という可能性もあります。不正競争防止法は、一言でいえば「企業の営利」を守るための法律です。自社の営業秘密や、他社の権利侵害などにもよく注意しておくことが大切といえるでしょう
上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。
(記事提供元:株式会社ZUU)