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「スタートアップ支援策」でNext Stageへ

掲載日:2023年10月3日 事業戦略

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岸田政権は2022年を「スタートアップ創出元年」として、「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。国内スタートアップへの投資額を5年で10倍の10兆円規模に拡大することを目標として、融資制度や税制優遇、補助金など幅広い政策で援助する内容となっており、既に1兆円規模の予算が計上されています。
これらはどのような目的で行われ、何をめざすのか、具体的にどのようにスタートアップを支援していくのか。本稿では、その注目ポイントを解説していきます。

「スタートアップ育成5か年計画」の3本柱とは?

スタートアップは、国が成長していくためのドライバーであり、将来の雇用や所得・財政を支える担い手です。
政府がその育成に力を入れる背景には、現状、日本は欧米と比べてスタートアップを創出できていないこと、数だけでなくユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)、デカコーン(評価額100億ドル以上の未上場企業)と呼ばれるような企業価値の大きさでも、世界と差が生じている事実があります。

また、日本は開業率も廃業率も低く、スタートアップM&Aの件数でも欧米と大きく差がある状況。
そこで「スタートアップ育成5か年計画」の遂行によって、スタートアップの創業や規模拡大、既存大企業によるオープンイノベーションの推進などを通じて、日本にスタートアップを産み育てるエコシステムを創出することを狙いとしているのです。

岸田政権が掲げる「スタートアップ育成5か年計画」のポイントは、次の3本柱に集約されます。

  1. 1.人材・ネットワークの構築
  2. 2.資金供給の強化と出口戦略の多様化
  3. 3.オープンイノベーションの推進

1つ目の柱は、スタートアップの担い手を育成し、起業を加速させるための支援策です。
日本では失敗を恐れるあまりに、起業を将来への望ましい選択肢と考えない人が少なくありません。そんな中、起業する人を増やすためには、意識や風土の改善が必要です。
また、国内外から優秀な人材が自然と集まり、メンターからの支援を受けながら企業のノウハウを学べる動きを作ることも重要となります。

2つ目の柱は、スタートアップが大きく成長するために必要な資金供給を受けられるよう、ベンチャーキャピタルからの投資を始め、様々な資金調達の手段を充実させるための支援策です。
出資機構からの出資機能強化や税制優遇、公共調達の拡大、IPOタイミングの柔軟化など、あらゆる角度から拡充が検討されています。

3つ目の柱は、エグジットとしてM&Aを増やすなど、大企業とスタートアップとのオープンイノベーションによって事業成長を加速させることを狙いとするものです。
そのためには大企業からスタートアップへの円滑な人材移動も必要で、スタートアップの既存発行株式取得にかかる税制の優遇措置などを行うことによって、大企業とスタートアップのM&Aが促進されることが見込まれます。

スタートアップのステージ別で、内容が異なる支援策

スタートアップの起業数増加と規模の拡大に向けて、よりマッチした支援ができるよう、全49項目に及ぶ支援策が展開されています。今回は、その中から代表的なものを一部、ステージ別に紹介しましょう。

<プレシード期・シード期>
プレシード期は事業の構想を練ったり、起業を思い立ったりする会社設立前の時期です。シード期は、事業を始めるにあたって事業計画を作成している段階のこと。
これらのステージでは、人材・ネットワークの構築や大学などでのスタートアップ創出、創業を支える資金供給拡大のための施策が必要だと考えられています。

才能や意欲がある人材を発掘し、起業家としてリスクをとってでも新しい事業を創出しようという精神や姿勢である、アントレプレナーシップを育むための主要施策は以下です。

  • シリコンバレーなど世界の先端拠点に、5年で1,000人規模の派遣プログラム実施
  • メンターによる若手人材支援
  • 起業家育成のための海外拠点の拡充
  • 米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設等アントレプレナー教育の強化

上記に加え、大学発スタートアップ創出や産官学連携・共同開発と、そのための施設整備なども盛り込まれていることも注目ポイントでしょう。
さらに、これまで事業化前段階での投資が限定的だったところを、強化するための資金供給拡大の施策として、以下が用意されています。

  • 無担保・無利子で融資を受けられる特例制度
  • 新規開業支援金の整備
  • 創業融資利率の引き下げ
  • 経営者やその家族が連帯保証人となることを求めない信用保証制度の創設
  • 日本政策金融公庫等による支援

このように、様々な方法による創業資金への融資が、手厚く用意されています。
やはり起業する際に、資金調達は1つの課題となりうるため、こうした支援策が充実することによって、起業を志す人が一歩踏み出しやすい環境となるでしょう。

<アーリー期・ミドル期>
アーリー期は事業開始後、さらなる成長のために人材採用や設備投資を行い、拡大を図る時期のこと。そしてミドル期は、事業が軌道に乗ってきて環境も整い、販促活動に積極的な投資を行うタイミングです。
このステージのスタートアップ向けには、主に事業を支える資金供給拡大と公共調達等を通じた事業拡大のための施策が用意されています。

資金供給拡大の施策としては、社会課題解決に直結するものの、事業化に時間と大規模な資金供給が必要な分野に対して、

  • ディープテック・スタートアップ支援事業(予算案額:1,000億円)
  • 創薬ベンチャーエコシステム強化事業(予算案額:3,000億円)

など大型の補助金によって、研究開発型スタートアップの成長を後押しする予定です。

公共調達等を通じた事業拡大の支援としては、

  • 日本版SBIR制度(Small Buisiness Innovation Research)の抜本拡充
  • 第5世代移動通信システム(5G)がさらに機能強化されたポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術開発の支援(予算案額:4,850億円)
  • バイオものづくり製品の社会実装に向けた取り組みの支援(予算案額3,000億円)

など、省庁の予算の一部を割り当てて技術開発を促進し、調達に繋げる施策が設けられています。
そのためいずれも予算規模が大きいのが特徴です。

<レイター期>
レイター期になると、事業において安定的な利益を確保できるようになり、上場や新規事業を考えるようになるでしょう。
このステージにはオープンイノベーションの推進や出口戦略の多様化、海外市場への事業展開など多様な事業展開支援の施策が用意されています。
国内市場が縮小しつつあるなか、海外市場への展開は継続的に成長するには必須となるでしょう。

さらに、出口戦略の多様化については、

  • SPAC(特別買収目的会社)の検討
  • 未上場株のセカンダリーマーケット整備
  • M&A促進に向けたIFRSの任意適用拡大

など、様々な制度の整備が予定されています。

スタートアップを支援する側にも、有用な施策

日本のスタートアップへの投資額やベンチャーキャピタルのファンドサイズ(運用資金の規模)・ディールサイズ(M&Aにおける売買価額の規模)は、ともにアメリカと比べて小さいのが現状です。
これもまた、わが国でスタートアップが劇的に増えていかない理由の1つかもしれません。

そこで、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなど、スタートアップの支援事業者からの融資を促すための施策も用意されています。その代表例がエンジェル税制で、スタートアップへ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置が行われるというものです。

その他、以下のような施策も盛り込まれています。

  • ディープテックベンチャー企業に対する融資に対して債務保証を行う制度
  • オープンイノベーション促進税制として出資額の最大25%の所得控除
  • ベンチャーキャピタルへの知財支援機能強化
  • 海外展開支援ができるベンチャーキャピタルに対して公的資本の投資

岸田首相は将来的に、スタートアップを10万社、ユニコーンを100社創出することにより、「日本をアジア最大のスタートアップハブにする」と述べています。
今回の「スタートアップ支援策」拡充は予算規模も大きく、スタートアップ担当大臣を任命するなど、本気度が伝わってくるでしょう。

スタートアップはSDGsの実現や新型コロナワクチンの開発など、社会課題に対するソリューションを提供する主体としても期待が寄せられています。
そのスタートアップ成長のためのエコシステムの構築には、「事業」「資金」「人材」の好循環が必須。
「スタートアップ育成5か年計画」によってそれらが強化されるはずなので、今後、支援策活用による多くのスタートアップ誕生に、注目していきたいものです。

おわりに

「スタートアップ支援策」は、ステージに応じて幅広い施策を用意しているのが特徴です。
これから起業を考えている人はもちろん、すでに起業し、経営者としての道を歩んでいるビジネスパーソンも、ぜひ活用してみてください。
また、そうしたスタートアップを支援する側にもメリットがある制度も多いため、これを受けて社会がどのように変化していくか、注視していくとともに、良い流れを掴めるように、情報収集してみましょう。

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

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