ページの先頭です
メニュー

メニュー

閉じる
本文の先頭です

社会課題に挑む「SDGs起業」のヒント~ソーシャルビジネスの成功事例~

掲載日:2023年8月1日 事業戦略

キービジュアル

ソーシャルビジネスの市場は、多様化かつ複雑化する社会の中で、より拡大していくことが予想されています。しかし、ソーシャルビジネスにおける3つの要件(社会性・事業性・革新性)のうち、「事業性」を伸ばしていくことは、特に大きな課題です。これをクリアするには、資金調達や人材育成、マーケティングなど、多方面にわたるビジネスの知識が必要とされるでしょう。
本稿では、SDGs起業を志すうえで多くの事例に触れてヒントを得るために、国内外で成功した代表的なソーシャルビジネスを紹介します。

貧困層や生活困窮者への小口融資ビジネス

まずは国外に目を向けてみましょう。代表例の一つは、ムハマド・ユヌス博士が始めたバングラデシュの「グラミン銀行」です。
ユヌス博士は、いわばソーシャルビジネスにおけるコンセプトの「生みの親」ともいえる人物。

1日1~2ドルで暮らしている貧困層や生活困窮者に、数ドル程度の小口事業資金を貸し出し、起業や就労によって貧困や生活困窮から脱却・自立することを支援する「マイクロファイナンス」(小口融資)の仕組みを考案しました。
これにより貧困削減だけではなく、女性の社会的地位向上や経済的自立の効果も、もたらしたといわれています。

この小口融資は多くの人が利用したうえに返済率も高く、事業としての継続性をしっかり担保していたのも特徴です。
その理由は、2つありました。

1つ目は、銀行スタッフによる「移動業務」です。
通常は、融資を受ける側が金融機関へ足を運びます。しかし、グラミン銀行の小口融資は真逆で、銀行スタッフが週に1回、貧困層や生活困窮者の多い村を訪れて、融資や貯蓄の手続きを行っていました。

これによって、銀行側は一度に多くの顧客を相手にでき、融資を受ける側も銀行へ行くことなく、必要な手続きを完了することができるというメリットがあります。

2つ目は、「5人組」と呼ばれる連帯保証のグループを作ったことです。
もし、グループ内で返済できない人が出た場合は、他のメンバーが返済を肩代わりします。
こうした制度があることで、融資を受けた人々が互いの返済を管理するとともに、生活向上への共通意識を持つようになったのです。

このようなビジネスモデルによって、担保を持たない貧困層、生活困窮者への小口融資による社会的効果を発揮しながら、環境に合わせた工夫で事業の継続性をしっかりと実現していたことが、成功の秘訣といえるでしょう。
実際、グラミン銀行は1983年の創設から現在に至るまで、時代に沿って形を変えながらも、貧困層や生活困窮者を支援するという理念はそのままに、事業を続けています。

そして、その要諦は「ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則」として、ソーシャルビジネスにおける世界的な指標となっているのです。

社会課題に挑む「SDGs起業」のヒント

事業のコアは守りつつ、継続するための工夫

では、日本国内ではどのようなソーシャルビジネスが成功しているのでしょうか。
実は、身近にその代表例があるのです。

駅前や街角で、雑誌を手に掲げて売っている人を見かけたことがあるでしょう。
雑誌の名前は「ビッグイシュー」。販売者は、家を持たないホームレス状態の人々です。

同誌の目的は、質の高い雑誌を作り、販売者を限定した独占販売事業とすることで、ホームレス問題の解決に挑戦しようというものでした。
販売者はビジネスパートナー、代理店主、自営業者という立場となり、1冊450円の雑誌を売れば、半分以上の230円を得ることができます。

この原型は、1991年のロンドンで生まれました。
日本では2003年9月に創刊され、当初は多くの識者から、100%失敗するといわれていたのです。
その理由として、主に以下の4つが日本の特徴として指摘されていました。

  1. 若者の活字離れ
  2. 雑誌の路上販売文化がない
  3. 優れたフリーペーパーが多く、有料では買ってもらえない
  4. ホームレス状態の人からは買わない

しかし2022年3月末時点で、販売者の登録者数は累計2,009人、14億8,920万円の収入をホームレス状態の人々に提供するという実績をあげています。これはソーシャルビジネスとして、一定の成功を収めているといえるのではないでしょうか。
その背景には、販売者であるホームレス状態の人々をビジネスパートナーとして明確な規律を作って育成したこと、また、失敗するといわれた理由をなくすべく、質の高いメディアを作り続けたことが奏功したのです。

ただ、20年もの間、継続してきた事業ではあるものの、会社としては赤字の期間もありました。
大きな理由として、独占販売としていたホームレス状態の人々の人口が、減少傾向にあることがあげられます。
ホームレス問題という社会課題を解決するために始めた事業が、解決へと進むほどに立ちいかなくなっていくというジレンマを抱えることとなってしまいました。

そうした状況下にあって、「ビッグイシュー」は販売価格の値上げという決断を下します。
これには、販売者からの反対意見も多くあったそうです。
なかには、値上げによる販売数の低下を危惧し、販売者の取り分を減らして会社の取り分を増やしてでも、値上げはしないでほしいという提案まであったとのこと。
けれども、それは当初の目的や理念と異なる選択肢であり、「ビッグイシュー」は値上げを断行します。

その直後、世界はコロナ禍に陥ることとなり、今度は路上での販売が困難な状況になってしまいました。
「ビッグイシュー」はこれに対応して、販売独占という形態を見直し、通販を始めたのです。

結果として、値上げと通販の開始によって、ビッグイシューは黒字へと転換し、事業継続への道筋が見えてきました。

この施策がうまくいったのは、値上げされても買いたいと思わせる良質なメディアを作ることに力を注ぎ、そして、ホームレス問題を解決するという理念を掲げて、それに向かってぶれない姿勢を貫いたことで、その思いが社会に浸透し、長きにわたって事業に共感するファンを増やし続けてきたからでしょう。
加えて、事業のコアとなる考えは守りながらも、コロナ禍というイレギュラーな社会情勢にも柔軟に対応したこともポイントだったといえます。

「恩送りのエコシステム」で持続可能な社会へ!

国内のユニークな事例として、「ソーシャルビジネスへの挑戦を支援する」というソーシャルビジネスが存在します。

それが「ボーダレス・ジャパン」です。
ソーシャルビジネスしかやらない会社として、世界13ヵ国で30以上の事業を展開しています。

同社において最も特徴的なのが、「恩送りのエコシステム」という考え方。
ボーダレス・ジャパンとの共同体として起業した会社の利益は、自己投資分を除き、すべてグループ共通の資金としてプールされます。
そして、その共通資金によって、新たなSDGs起業家を支援するのです。
もちろん、黒字化した企業は、“恩を送る”側へとまわります。

また、ボーダレス・ジャパンはSDGs起業家集団であるため、金銭的なサポートだけではなく、ソーシャルビジネスで起業するためのノウハウや、経営者の自立に向けた支援まで、幅広いメニューがあるのも特徴です。

こうした形にすることで、様々なことに挑戦できる環境が整えられるでしょう。

おわりに

本稿では、世界的に盛りあがりを見せるソーシャルビジネスの代表例をご紹介しました。
ここで取りあげた事業はほんの一部で、国内外で多くの事業が、まだまだ成長過程にあります。
SDGs起業家は活動を通して利益をあげ、その利益は最大限、社会に還元されるのが基本です。
事業活動に継続性を持たせながら、社会課題を解決していくのは決して簡単なことではありません。

成功の鍵は、社会課題やニーズをどのように捉え、どんなアイデアやサービスを生み出すか。そして、日々変化する環境変化に、いかに対応していくか、ということでしょう。
いずれにせよ、「世の中をもっと良くしたい」という思いを強く、ぶれずに持っている人には、きっとチャレンジしがいのある分野なのではないでしょうか。

社会課題に挑む「SDGs起業」のヒント~「ソーシャルビジネスの始め方(発想法)と成功の秘訣」~

(記事提供元:株式会社プレジデント社 企画編集部)
※記事内の情報は、本記事執筆時点の情報に基づく内容となります。
※上記の個別の表現については、必ずしもみずほ銀行の見解を示すものではありません。

その他の最新記事

ページの先頭へ