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優秀な起業家の意思決定~5つの原則~

掲載日:2022年11月1日事業戦略

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AI技術の急速な進化、地震や台風等の災害、新型コロナウイルスのような未曽有のパンデミック。
これらは私たちの生活だけでなく、ビジネス環境にも急激な変化をもたらしました。

現代は未来予測が困難な、不確実性の高い時代といわれています。
ビジネスにおいては数年先を見据えた意思決定が極めて難しく、従来型の目標ありきで行われる意思決定プロセスに限界を感じる経営者もいるようです。

一方で、近年活躍している優れた起業家には、ある共通した意思決定プロセスがあることが分かってきました。
それは「目標」ありきではなく、「手段」ありきの思考によるものといいます。

予測困難な時代に適した経営戦略を打ち立てていくために、本稿では、彼らが用いる思考方法について紐解いていきましょう。

不確実な時代に注目される理論とは?

現代は「VUCA(ブーカ)」の時代だといわれます。
VUCAとは「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」「Complexity=複雑性」「Ambiguity=曖昧性」のそれぞれから頭文字をとった造語で、先行きが不透明で、将来の予測が困難な状況を意味する言葉です。
この言葉はもともと、1990年代の冷戦終了後から複雑化する国際情勢を背景に、軍事用語として使用されていましたが、2010年ごろからはビジネスシーンでも用いられるようになっています。

現代のように未来が予想しにくい状況では、これまでと同様に目標を設定し、そこから逆算して何をすべきか考えて計画を立てる手法が、機能しないケースもあると考えられています。

そこで、近年注目されているのが「エフェクチュエーション」です。
これはインド人の経営学者、サラス・サラスバシー氏が著書『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』の中で提唱した理論で、サラス氏によると、優れた起業家の89%が、このエフェクチュエーションの理論を実践しているそうです。

エフェクチュエーションとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
これまでのビジネスにおいては、まず目標を設定し、その達成に必要なリソースを準備して進めていくことが主流でした。
この手法は「コーゼーション」と呼ばれ、多くの企業では一般的なアプローチ方法になっています。
これに対してエフェクチュエーションは、今手元にあるリソースを使って、何ができるかを考えるところからスタートするアプローチ方法です。

コーゼーションが「何をすべきか」と考えるのに対し、エフェクチュエーションは「何ができるか」に重きを置くという点で、両者は真逆のアプローチ方法といえます。

料理を例に考えてみましょう。夕食に「ビーフカレーを作ろう」と目標を定めたら、必要な食材を買ってきて料理を始める。これがコーゼーションです。
一方、家にある食材を確認して「今夜はこれでオリジナルカレーを作ろう」と考えて料理に取りかかる。これがエフェクチュエーションです。
前者の場合、いざ買い物に出かけても、ジャガイモが品切れだったり、牛肉が値上がりしていて予算オーバーだったりすると「ビーフカレーを作る」という当初の目標を修正し、別の夕食メニューを考えなければなりません。

先に目標を決めてしまうのではなく、手持ちのリソースで何ができるのかを考えて、結果をデザインしていく。
これがエフェクチュエーションの大きな特徴の一つといえます。
将来の予測が困難な時代だからこそ、この理論が注目されているのです。

「3つの資源」を洗い出すことから始める

「何をすべきか(What should I do?)」から思考するコーゼーションに対し、エフェクチュエーションでは「何ができるか(What can I do?)」という目線を持つことが出発地点です。
エフェクチュエーションを実践していくためにまず、自分が持っている「3つの資源」を洗い出すことからスタートしましょう。

エフェクチュエーションのための「3つの資源」

  1. 自分が何者であるのか
  2. 何を知っているのか
  3. 誰を知っているのか

一つずつ詳しく見ていきましょう。

①自分が何者であるのか

個々の特性や固有の能力、属性等を書き出します。
そして、それぞれの特徴や独自の能力や魅力、強み等、自分をユニークたらしめている要素を明確にし、それを資源とするのです。
書き出していく際、最終的に「自分は持っている資源を糧に何を生み出せるか?」という視点を持つと、イメージが湧きやすいでしょう。

②何を知っているのか

自身が持つ専門性や知識、経験等を把握し、資源とします。
教育や仕事から得たものを想像すると、書き出しやすいかもしれません。
これらはそれぞれの人生やキャリアによって内容や量に差があるため、必然的に、人によってスタート地点や、めざすべきゴールが異なるということが分かるでしょう。

③誰を知っているのか

人的・社会的なネットワーク、つまり人脈を指します。
新しいことを始める際には最大の資源となるものです。
家族や友人の他、直接的または間接的な知人、その人たちが持つ資源すらも、自分の資源に加えることができます。

自分が持っている「3つの資源」を洗い出して明確化すると「何ができるか」が見えてきます。
「何ができるか」を認識し、自らの手札をどう生かせるかを考え、そこから行動を開始するのです。

「5つの行動原則」から成り立つエフェクチュエーション

エフェクチュエーションには「5つの行動原則」があり、これらは起業家を育成するプログラムにもなり得るとして注目されています。
これは日常業務の改善や、新たなアイデアを生み出すためにも活用できる理論です。

エフェクチュエーションの「5つの行動原則」

  1. 手中の鳥の原則(Bird in Hand)
  2. 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)
  3. クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)
  4. レモネードの原則(Lemonade)
  5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)

①手中の鳥の原則(Bird in Hand)

既存の手段を用いて新しい何かを生み出すことです。
新規ビジネスを始める際、新たに何かを学習したり、手法や人脈を発見・開拓したりするのは大変なことでしょう。
しかし優れた起業家は、わずかな可能性に過ぎない既存のリソースでも活用し、次のビジネスチャンスを形成していくのです。

②許容可能な損失の原則(Affordable Loss)

予測不能な未来に対し、優れた起業家は損失が生じても致命的にはならない範囲で、コストを事前に設定しておきます。
将来期待できる利益をベースに考えるのではなく、どの程度の損失であれば許容できるのかをあらかじめ決めておき、それを上回らないように行動するのです。
許容可能な損失を上限とすることで、リスクをコントロールできます。

③クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)

大きさ、形、色、柄が異なる布をパズルのように縫い合わせて作られた1枚の布を、クレイジーキルトと呼びます。
これになぞらえ、顧客や競合他社、協力会社、従業員等、起業家を取り巻くステークホルダーとパートナーシップを作り上げ、一体となってゴールをめざしていくことが、クレイジーキルトの原則です。
優れた起業家は、必要であれば競合相手であっても交渉を重ねて、パートナーになってしまうのです。

④レモネードの原則(Lemonade)

アメリカのことわざに「When life gives you lemons, make lemonade(人生にレモンを与えられたら、レモネードを作ればいい)」というものがあります。
この場合のレモンには、粗悪品、失敗作というニュアンスがあり、使い物にならない失敗作でも、工夫やアイデア次第では、新たな価値を持つ製品へと生まれ変わらせることが可能だということ。
優れた起業家は、ネガティブな事態に直面しても、それをポジティブな方向に転じることができるのです。

⑤飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)

前出の4つを網羅した原則です。
飛行機のパイロットは、計器類の数値を常に確認しながら、変化する状況を冷静に観察しています。
そして不測の事態が起きても、臨機応変に対応するものです。
つまり不確実な状況に対しても、その時々で柔軟に対応するべきだということを意味しています。
優れた起業家は予測のみに頼らず、刻一刻と変化する状況を常に把握し、それに応じたコントロールを怠らないのです。

実際にエフェクチュエーションが活かされた例としては、とある製菓メーカーの話があげられます。
そのメーカーは当初、一般的な円形の煎餅を販売していたのですが、型抜きに失敗し、いびつな形の製品を作ってしまいました。
しかし、メーカーは思い切って、その形のまま製品を出荷。
結果、「面白い形だ」と購入者から高評価を受け、その製品は同社のヒット商品になりました。

ネガティブな事態をポジティブに変換し、それが結果に結びついたのです。
まさに「④レモネードの原則」にあてはまる成功例といえるでしょう。

おわりに

コーゼーションが目標設定型のアプローチ方法ならば、エフェクチュエーションは問題解決型のアプローチ方法といえます。
しかし、どちらがより有効だとか、より優れているということではありません。

環境変動が大きく、将来予測と目標設定が困難な状況では、エフェクチュエーションは有効でしょう。
ベンチャー企業や新規事業開発等、0から10を作るフェーズに適しているのではないでしょうか。
一方で1から10を作るフェーズ、つまり事業がある程度安定し、将来を予測しやすい状況ではコーゼーションが有効であるといわれています。状況に応じて両者の併用も必要です。

先行き不透明で予測不可能な現代。「何が起きるか分からない」「何が流行るか分からない」という状況下では、臨機応変かつ迅速な判断をし、既存リソースを活用しながらゴールを作り出していかなければなりません。
エフェクチュエーションは、これからの時代を生き抜くための重要な経営戦略の一つになり得るでしょう。

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