中国の外貨管理2023
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4.モバイル決済の急成長が銀行カードの発行・利用に与える影響 決済プラットホームについて,健全な競争環境を創出し,中小企業の参入促進を示した。また監督の強化を図り,企業が金融関連のプラットホームを展開する場合,金融事業の関連許認可取得を義務付けることも改めて強調した12。 近年,中国では携帯電話によるモバイル決済の急成長が銀行カードの発行と利用に影響を与えるのではないかとの声が上がっている。 足元,中国におけるモバイル決済では,一般的に銀行口座を紐付けする必要がある。銀行口座開設の際,銀行カードが発給されているため,実質的には銀行口座との紐付けは,銀行カードとの紐付けに相当すると理解しても良い。もちろん,銀行口座を紐付けず,第三者決済機関が利用者のために開設した支払口座を通じた決済も可能であるが,支払口座の限度額などに制限が設けられている。 決済手段の変化について,人民銀行が2021年7月に発表した「中国デジタル人民元の研究開発進展白書」(中国数字人民币的研发进展白皮书)によると,19年の中国支払・記帳日誌調査では,携帯によるモバイル決済が件数ベースで全体の66%,金額ベースで同59%を占めており,現金決済(件数ベース23%,金額ベース16%),銀行カードによる決済(同7%,同23%)のシェアを大幅に上回ったことがわかった。また,調査対象者のうち46%は,調査期間中に1度も現金決済を利用しなかった。一方,16年末から20年末の統計データによると,流通中の現金(M0)残高には増加傾向がみられることから,金融サービスが発達していない地域では,現金への依存度が依然として高い状況であることがうかがえるとした。 モバイル決済が普及拡大する一方で,2021年,銀行カードの発行枚数は増加が続いており,カードによる振替,消費は件数,金額ともに増加した。一方,モバイル決済の普及がキャッシュレス化の進行を後押しするため,預入と現金引出は件数,金額ともにいずれも減少傾向が続いている(「2021年支付体系運行総体情況」)。 なお,デジタル時代に適応した安全で包括的かつ新たな小口支払のインフラに対する需要や現金の機能・使用環境の変化などを背景に,人民銀行はデジタル人民元(以下「e-CNY」)発行に向けた準備を段階的に進めている。2014年に法定デジタル通貨研究チームを立ち上げ,e-CNYの発行枠組み,コア技術,発行・流通環境,他国の経験などの研究に着手し始めた。16年には「数字貨幣研究所」を設立し,二層構造の運営体系や制御された匿名性などの設計案を提出した。17年末には大型商業銀行,技術開発力の高い大手通信キャリア及びインターネット企業を研究・開発参加者として選択し,e-CNYの研究・開発を開始した。19年末からはe-CNYの実用化に向けた動きがみられ, 12「易纲:中国大型科技公司监管实践—在国际清算银行(BIS)监管大型科技公司国际会议上的讲话」人民銀行 2021年10月9日 133

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