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掲載日:2020年9月28日

生産性向上

さらば“孤独感”。前向き経営への自己改革法

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「経営者は孤独である——」。コロナ禍で経済環境の好転が見込めないいま、中小企業のトップはそうした思いを強めていることでしょう。しかし、環境が厳しい時こそ、経営者は前向きにならねばなりません。
組織のトップがポジティブな姿勢でいれば、従業員たちもむやみに不安がらずに、希望を見出せるようになるからです。では、そのために、経営者はどのようにして自らを奮い立たせればよいのでしょうか。
本稿では、強い自分をつくるための改革法を紹介します。

「発話発想」で自分の思考に気づく

今期の売上はどのくらいになるのか、従業員の給与をどう確保するか、どんな公的支援が受けられるのか、そもそも事業継続が可能なのか……、事業の全責任を負う経営者の不安は、尽きることはありません。
だからこそ、本来はその「心配ごと」「気にかかること」「不安なこと」などを、信頼できる誰かに相談できればよいのですが、「立場所そんなことを話せる相手はいない」という経営者が多いようです。

そこで、まず紹介したいのが、「発話発想」という考え方で、自分自身の思いを人に話すことによって、思考が整理され、“気づき”を得られるというものです。
これは、人に「相談」するわけではありませんので、話す内容は、心配ごとや悩みではなく、単に、「ただ思っていることを話してみる」ということがポイントになります。

この方法のメリットは、第一に、人に話すことによって、「自分の言葉が耳に入ること」ということが挙げられます。
口に出さないでいると、心の中でその思いが、ただグルグル回っているばかりですが、発話することで、文字通り「自分の(心の)声を聞く」ことになり、「自分はこう思っていたのだ」と、自分自身の考え方が把握できるようになっていくのです。

第二は、相手の反応から“気づき”を得ることができることでしょう。
発話をしていると、相手からの返答からはもちろん、相槌やちょっとした仕草によって、相手が自分の話に対して、どう感じているかが伝わってきます。こうした反応から、気づきを得ることができるようになり、「やっぱりそうか」「やっぱり違うか」と思考が整理されていくのです。

繰り返しますが、話す内容は仕事や悩みに限らず何でもよく、大切なのは、「発語」と「発想」を繰り返しながら、自分の思考を整理したり、確かめたりしていくことです。
これに慣れることによって、自分がトップとしてとるべき行動が明確化され、孤独感も薄れ、気持が前向きになっていくことでしょう。

「ポジティブ感情」になるためにプラスのことがらを明文化する

本来、経営者は、前向きで意欲に燃えて歩んできたからこそ、そうした立場となったはずです。ですから、もともとはポジティブ思考の持ち主である場合が多いかもしれません。
とはいえ、どんな人でも常にポジティブであり続けるとは限りません。電池にプラスとマイナスがあるように、人間の感情にもプラス極(ポジティブ感情)とマイナス極(ネガティブ感情)があり、この2つの極の間で、私たちの心は常に揺れ動いているといえます。

アメリカの心理学者であるバーバラ・フレドリクソンは、「ポジティブ感情」には、喜びや感謝、安らぎ、興味、希望、誇り、愉快、鼓舞、畏敬、愛、楽しみ、歓喜、恍惚感、希望、感動などの感情が含まれていて、これらの感情がポジティブな生き方に通じるスイッチになっていると説いています。
つまり、あることについて「楽しかった」「感動した」などポジティブな感情を抱いたら、ほかのことについてもポジティブに捉えられるようになるということです。ポジティブがポジティブを呼ぶということになるでしょう。

今の社会環境下ではポジティブ感情を抱くのは難しいかもしれませんが、だからこそ、過去の「楽しかったことベスト10」を書き出してみてはどうでしょうか。
経営には無関係のことであっても、自分がどういう時にポジティブ感情になるかを確認でき、楽しいことを思い出しているうちに、前向きになってくるはずです。

また、ポジティブがポジティブを呼ぶことに着目し、自分で自分を褒める「ほめノート」をつけるのもお勧めです。
これは、一日の終わりに、「商談がうまくいった」「部下が成長できた」など、プラスに感じるできごとを、ノートに書き出していくものです。ただ心で「思っている」だけでなく、可視化することで、しっかりと認識ができ、自信がつき、思考がどんどんプラスになっていくでしょう。

リズミカルな生活で、精神安定につながる「セロトニン」をアップさせる

孤独感を払拭して、精神的に安定した強い自分をつくるには、日々の生活習慣を見直すことも必要です。
とくに中小企業の経営者は、すべてを自分で背負ってしまい、オーバーワークになりがちだといわれています。そのため睡眠不足になったり、不規則な生活になったりしているのではないでしょうか。

コロナ禍で、いつもと違う生活パターンを送らざるを得ない人もいるかもしれませんが、この機会に、「リズミカルな生活」を意識してみることをお勧めします。それにより、不安やマイナス思考が減る可能性が生まれてくるかもしれません。

「リズミカルな生活」とは、すなわち“生体リズム”に即した生活をするということです。私たちは、朝になると自然に目が覚めて、夜になると自然に眠くなるという「生体リズム」を持っています。これは、体内時計による現象ですが、この体内時計は、実は私たちが社会生活の基準としている1日24時間よりも少し長いため、ズレが生じていくといわれているのです。
このズレを調整してくれるのが、太陽の光であり、とくに目に光の刺激が入ることが大事で、そのため、朝日を浴びることが推奨されています。

太陽の光が目に入ると、神経伝達物質の一つ「セロトニン」が分泌され、脳が覚醒されていきます。つまり、日中に活発に活動できるよう準備してくれるわけです。セロトニンは、感情のコントロールや精神の安定に深く関わっており、不安を和らげる作用があるといわれています。

つまり、生活リズムが乱れていれば、体内時計がどんどんズレてしまい、不眠症になったり食欲が落ちたりするばかりか、精神的に不安になるなど、心身にさまざまな不調をきたす場合があるのです。
逆にいえば、生体リズムに即した生活をすることで、セロトニンがしっかり分泌され、不安のない、安定した生活をおくることが期待できます。

セロトニン分泌を活発にするには、太陽の光を浴びるほか、ウォーキングなど「イチ、ニ、イチ、ニ」とリズミカルに運動することや、人と触れあうことが良いとされています。
いまは、「人との触れ合い」は難しいかもしれませんが、電話やオンラインでのやりとりを通じて、精神的な関係性を深めると良いでしょう。

ガチガチの鎧を脱いで、階段を2、3段降りてみる

最後に、組織のトップが「孤独感から解放されるために必要なこと」について考えてみます。
そもそもなぜ、トップは孤独なのかというと、やはり、冒頭でもお伝えしたように、心の内を吐き出せないからでしょう。しかし、思いを外に出せないのは、結局のところ、「トップだから」「トップたるもの」という鎧を、自ら固く身につけてしまっているからともいえます。

ですから、孤独感から解放されるには、その鎧を少しずつ緩め、たまにはいっそ脱いでみてはいかがでしょうか。例えば、部下に頼ってみたり、わからないことは素直に「わからないな」と言ってみたり……。
完璧ではなく、弱いところを見せるトップに社員は親しみを感じ、「自分たちがトップを支えていこう」と、社内が一丸となった企業もあります。そこでは、トップから頼られることが嬉しくて、社員のモチベーションがグングン上がっていったそうです。

逆にトップが何でもできてしまうと、「きっと上の人がやってくれるよ」となり、組織としてのまとまりがなくなるうえに、トップと社員との距離ができてしまいます。それも経営者が孤独になる一因でしょう。
その距離を埋めるには、経営者自ら近づいていくしかありません。トップダウンはある程度は必要ですが、高い階段から見下ろすのではなく、状況を見極めながら2、3段降りていき、社員目線でものごとを見ることが大切です。

社員が何をどう考えているのか、自分がトップとしてどうしていきたいのか、お互い素のままで語り合うことが、今こそ必要だといえるのではないでしょうか。
孤独感から解き放たれれば、心が軽くなり、ポジティブ感情が湧き起こって、経営の舵取りも良い方向に切れるに違いありません。

(記事提供元/株式会社プレジデント社 企画編集部)

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