政府は、食品にかかる消費税率(軽減税率)を8%から1%に引き下げることを閣議決定した。長引く物価高に対応するため、所得連動型の給付制度を導入するまでの時限措置として、2027年度から2年間限定で実施される。さらに、残る税率1%部分についても、中低所得世帯を中心に給付を行うことで、実質的な税負担をゼロにする方針だ。みずほ総合研究所の推計によると、軽減税率の引き下げは、家計の購買力改善を通じて実質個人消費を約0.4%、実質GDPを約0.2%押し上げる効果がある。ただし、今後も食品の値上がりが予想され、家計が実感する負担軽減効果は試算より小幅になる可能性がある。
平均世帯の負担を年間約5.6万円軽減。所得比で見れば中低所得世帯ほど恩恵大
軽減税率の引き下げによる税負担軽減効果を、家計調査の年間消費支出額(二人以上世帯、2025年)を基に試算した。図表1の通り、平均世帯(赤枠部分)では年間55,800円、月額にして約4,600円の負担軽減が見込まれる。消費税減税の効果は購入価格の低下として現れる。消費者物価に対しては約1.3%の押し下げ効果となり、物価高を一定程度緩和する効果が期待できる。
負担軽減効果は世帯所得によって濃淡があり、所得に対する比率でみると、中低所得世帯ほど恩恵が大きい。図表1のように、所得が低い世帯ほど所得対比で食品支出額(軽減税率の対象でない酒類・外食を除く)が大きく、負担軽減額を所得で割った「負担軽減率」は高くなる(図表1・黄枠)。一方、高所得世帯では、負担軽減額は大きいものの、所得対比でみると相対的に恩恵が小さい。軽減税率の引き下げは一律だが、実質的には中低所得世帯を相対的に手厚く支援する措置だといえる。
なお、今回の消費税減税は軽減税率部分を対象としたものであり、外食は対象外だ。外食支出額は世帯所得に比例して大きく増加する傾向がある。高所得世帯ほど食品支出額に対する外食支出額の比率が大きいため、外食が対象に含まれないことで、その分だけ高所得世帯は負担軽減の恩恵を受けにくくなる。
図表1 所得階層別の負担軽減効果
- (注)消費税の軽減税率を8%から1%に引き下げた際の家計の負担軽減効果を、2025年の家計調査をもとに試算
- (出所)総務省「家計調査」より、みずほ総合研究所調査部作成
消費税減税による実質個人消費の押し上げ効果は+0.4%
消費税減税により、2027・28年度の個人消費は、ベースライン(消費税減税がない場合)と比べて+0.4%程度押し上げられるとみている。
前述の通り、消費税減税により消費者物価は約1.3%押し下げられる見込みだ。言い換えれば、物価上昇の影響を割り引いた家計の実質的な購買力(実質可処分所得)が約1.3%押し上げられることになる。負担軽減分のすべてが追加的な消費支出に向かうわけではなく、一部は貯蓄や借入の返済に充てられる可能性がある点を考慮すると、実質個人消費の押し上げ効果は+0.3%程度と試算される。
消費税減税に加えて、政府は、消費税減税後の軽減税率1%部分についても、中低所得世帯を対象とした給付により手当てする方針だ。給付が実施されれば、中低所得世帯の食品支出にかかる消費税率は実質ゼロと見做すことができる。この効果を試算に織り込むと、実質個人消費の押し上げ効果は+0.4%まで拡大し、実質GDP対比では+0.2%のインパクトになる(図表2)。
なお、減税開始・終了の前後では、個人消費が上下に振れることが予想される(図表3)。減税開始前には、減税を見越した家計が一部食品の購入を先送りする可能性がある。反対に、減税終了前には軽減税率の再引き上げを見越した駆け込み消費が予想され、減税終了後はその反動が個人消費を下押しする要因となるだろう。
もっとも、個人消費の基調を左右する主因はこうした一時的な変動ではなく、税率変更による実質購買力の増減だ。減税終了後は家計の実質購買力が減少し、個人消費の基調が下振れるおそれがある。この点について、政府は今回の食品減税を「恒久的な所得連動型給付制度が導入されるまでの時限措置」と位置付けている。減税終了後、給付付き税額控除などの所得連動型給付制度へ切れ目なく移行することができれば、個人消費の下振れを緩和することができるだろう1。
図表2 消費税減税の景気浮揚効果
- (注)軽減税率を8%から1%に引き下げた場合の物価押し下げ効果と、軽減税率1%分の税収を給付した場合の名目所得の増加を想定し、みずほ総合研究所が試算
- (出所)内閣府「四半期別GDP速報」、「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報」等より、みずほ総合研究所調査部作成
図表3 消費税減税による実質個人消費の変動
- (注)予測値は6月末時点。2027・28年度の食品にかかる軽減税率を1%に引き下げ、2029年度に年間3兆円の給付が開始されるとの想定のもと、みずほ総合研究所が推計
- (出所)内閣府「四半期別GDP速報」より、みずほ総合研究所調査部作成
食品インフレの持続で家計の実感する負担軽減効果は減税幅を下回る可能性
消費税引き下げによる負担軽減効果そのものは十分に大きいが、家計実感としては、試算値ほどの効果が感じられない可能性がある(図表4)。今後も食品価格の上昇が見込まれるためだ。総務省の「家計調査」では、2025年は食品価格の上昇により、二人以上世帯の年間の食費は約6万円増加した。2026年も食品値上げによって食費の増加が続いている。原油高などの海外要因に加えて、人件費の上昇といった国内要因も食品価格の押し上げに作用している。これまでコスト増分を十分価格に転嫁できていなかった食品メーカーや小売事業者が、消費税減税を機に値上げを実施する可能性もあろう。
みずほ総合研究所による試算では、食品の値上げにより2026年の食費は約3万円増加する見通しだ。食品価格の上昇は2027年も続くと予想され、減税による負担軽減効果(平均世帯で年間5.6万円)は、その一部が食品価格の上昇によって相殺される可能性が高い(図表4)。消費税減税を実施しない場合に比べれば平均で年間5.6万円の負担軽減効果があるものの、消費減税の前後では思ったほど負担軽減の効果が実感できない可能性もある点には留意が必要だ。
図表4 食品価格の推移
- (注)酒類・外食を除く食品価格。2026年度はみずほ総合研究所の予測。「消費税減税なし」は2027年度以降も26年度と同程度の価格上昇が続いた場合を想定した試算値
- (出所)総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所調査部作成
[参考文献]
井上淳(2026)「原油高で再燃するインフレリスク-100ドルの原油価格が続けば4%インフレの懸念-」、みずほ経済インサイト、2026年5月11日
井上淳・池田亮平(2026a)「日本の食品インフレの行方-上昇ペースは鈍化するが、物価押上げ圧力は残存-」、みずほインサイト、2026年1月29日
井上淳・池田亮平(2026b)「原油下落でも26年後半にはインフレ再加速へ-原油高・ナフサ高の価格転嫁が食品価格に波及-」、みずほ経済EXPRESS、2026年7月15日
帝国データバンク(2026)「『食品主要195社』価格改定動向調査(2026年8月)」2026年7月31日
みずほ総合研究所(2026)「2026年・2027年 みずほ世界経済見通し-供給ショックへの対応とAI投資ブームが共鳴する世界-」、2026年6月30日
- 図表3に示した当研究所の予測においては、消費税減税の終了後に年間3兆円規模の給付開始を織り込んでいる。ただし、実際の減税終了後の影響は、今後の制度設計次第で大きく変わり得る点には留意が必要である。
