これまでに公表された4~5月の消費関連指標は、消費者マインドの悪化にもかかわらず、個人消費が予想を上回るペースで拡大していることを示している。インフレの鈍化や、耐久財消費の一時的な上振れが、消費の追い風になっているようだ。こうしたハイペースの消費拡大は夏場以降に減速するとみられるが、堅調な賃金上昇や政府の物価高対策を背景に、2026年後半の個人消費は底堅く推移する見通しだ。
消費マインドの悪化とは対照的に、個人消費は予想外に堅調
中東情勢を巡る緊張が高まった3月以降、日本では消費者マインドが急速に悪化した(図表1)。原油価格の上昇や世界経済の先行き不透明感を受け、家計の懸念が強まったことがうかがえる。
しかし、こうした消費者マインドの悪化とは対照的に、足元の個人消費は力強い。物価上昇の影響を取り除いた実質個人消費の動向を示す消費活動指数は、4月、5月と大幅に上昇している(図表2)。内訳をみると、サービス消費が緩やかな拡大基調を維持するなかで、耐久財消費が大幅に増加したほか、下振れが続いていた非耐久財消費も持ち直しに転じており、個人消費が全般的に拡大していることが確認できる。
図表1 消費者態度指数(消費者マインド)
- (出所)内閣府「消費動向調査」より、みずほ総合研究所調査部作成
図表2 消費活動指数(実質個人消費)
- (注) 旅行収支要因は、非居住者による国内消費を控除し、居住者による海外消費を加えるための調整要因
- (出所)日本銀行「消費活動指数」より、みずほ総合研究所調査部作成
良好な所得環境に加え、自動車・エアコン需要が消費を押し上げ
このように個人消費が全般的に拡大している背景には、次の4つの押し上げ要因があると考えられる。すなわち、①名目賃金の高い伸び、②インフレ率の鈍化、③物価高対策、④「特需」による耐久財消費の押し上げである。
このうち①~③は、まとめて所得環境の改善といえるだろう。まず①について、2026年の春闘では+5.01%(連合・最終集計)と高水準の賃上げ率が実現し(図表3)、名目賃金は高めの伸びが続いている。次に②では、米類など食品価格の上昇ペース減速を中心にインフレ率が鈍化しており、①と②の結果、実質賃金が上昇している(図表4)。さらに、③の物価高対策によってガソリン価格の上昇が抑制されていることも、実質賃金の上昇に寄与している。
図表3 春闘賃上げ率
- (注)春闘賃上げ率は定昇分を含む。定昇分を除く春闘ベアは賃上げ分を明確に表明した組合ベース
- (出所)日本労働組合総連合会「春季生活闘争」より、みずほ総合研究所調査部作成
図表4 実質賃金上昇率
- (注)名目賃金要因は現金給与総額(共通事業所ベース)、インフレ要因はCPI総合の前年比により計算
- (出所)厚生労働省「毎月勤労統計」、総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所調査部作成
こうした所得環境の改善が、個人消費の全般的な好調さを支えているのは間違いないだろう。実際、食品などの非耐久財消費はこれまで弱い動きが続いていたが、このところは消費需要が持ち直している。食費やガソリン代の負担が軽減されたことで、食品以外への支出余力も高まっているとみられ、玩具やスポーツ用品などの教養娯楽用品、カバンなどの身の回り用品といった品目への支出にも持ち直しの動きが確認できる。
また、耐久財消費ではこうした所得環境の改善に加えて、自動車とエアコンの「特需」による一時的な追い風(④)も押し上げ要因になっているようだ。耐久財消費全体への寄与が大きい自動車については、購入時の減税(環境性能割の廃止)が購入を後押ししている。図表5は、最近の新車販売台数の推移を示したものだ。これをみると、4~6月期の販売実績は2023~25年の平均を1割近く上回っており、減税による一時的な押し上げ効果が確認できる。エアコンについては、2027年度の新省エネ基準導入による販売価格の上昇を前に、駆け込み需要が発生している模様だ。
図表5 新車販売台数
- (注)みずほ総合研究所調査部による季節調整値、軽自動車を含む
- (出所)日本自動車販売協会連合会「新車販売台数状況」、全国軽自動車協会連合会「軽四輪車新車販売」より、みずほ総合研究所調査部作成
個人消費は2026年後半に減速するも、底堅く推移する見通し
こうした消費の力強い伸びは、夏場以降に一服する見通しである。先に示した①~④の押し上げ要因のうち、②インフレ率鈍化と、④耐久財消費の「特需」の2つの要因が剥落するためだ。図表6に示すように、今後は食品の値上げ品目数が増加する予定であり、食料品を中心とするインフレ再加速を受けて実質賃金の伸びが鈍化することが見込まれる。耐久財消費の「特需」については、環境性能割の廃止による自動車購入の押し上げや、エアコンの新省エネ基準導入前の駆け込み需要が次第に一巡するだろう。
しかし、①名目賃金の高い伸びと、③物価高対策が支えになることで、個人消費の大幅な落ち込みは避けられる見通しだ。中東情勢の先行きは依然不透明だが、原油・ナフサ等の供給不足懸念はひと頃より後退しており、景気が大幅に悪化する可能性は低いとみられる。人手不足の継続も相まって、名目賃金は高めの伸びが続くと予想される。政府の物価高対策については、ガソリンなど燃料油への補助が継続することに加え、夏場は電気・ガス料金の支援が実施され、食品を中心としたインフレ再加速による消費下押し圧力を一定程度緩和すると考えられる。
以上のように、2026年後半の個人消費は拡大ペースが鈍化する見込みだが、高水準の賃上げと物価高対策が下支えし、底堅く推移するだろう。個人消費は、春先の一時的な上振れ局面から、緩やかな回復局面へ移行すると考えられる。
図表6 食品値上げの品目数と食品価格
- (注)食品の価格改定数は過去6カ月平均値
- (出所)帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査(2026年7月)」、総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所調査部作成
[参考文献]
池田亮平(2026)「高まる家計の節約志向-中東情勢を受けたインフレ再加速が、今後の消費の重石に-」、みずほ経済EXPRESS、2026年7月2日
井上淳(2026)「原油高で再燃するインフレリスク-100ドルの原油価格が続けば4%インフレの懸念-」、みずほ経済インサイト、2026年5月11日
井上淳・池田亮平(2026a)「日本の食品インフレの行方-上昇ペースは鈍化するが、物価押上げ圧力は残存-」、みずほインサイト、2026年1月29日
井上淳・池田亮平(2026b)「原油下落でも26年後半にはインフレ再加速へ-原油高・ナフサ高の価格転嫁が食品価格に波及-」、みずほ経済EXPRESS、2026年7月15日
帝国データバンク(2026)「『食品主要195社』価格改定動向調査(2026年7月)」2026年6月30日
