アジアでは輸出が総じて好調。一方、貿易収支の動きはまちまち
アジアでは輸出が好調だ。図表1は、アジアの輸出額について、2026年の1~5月の前年同期比を示したものである。インド・インドネシア以外の主要な国・地域において、輸出額は前年比2桁増となっている。台湾、韓国に至っては4割超の伸びを記録した。こうした地域で輸出額を押し上げているのは、主に電子機器関連の輸出額である。昨今のAIブームのもと、関連製品の需要拡大が各国輸出産業への追い風となっている模様である。
一方で、貿易収支の状況は、各国・地域によりまちまちである。図表2は、アジアの国・地域別の2025年1~5月と2026年1~5月の輸出入額、貿易収支を示したものだ。韓国や台湾、シンガポール、マレーシアでは、輸出拡大とともに貿易黒字が拡大している。それとは対照的に、タイやベトナム、フィリピンでは、輸出と同時に輸入が拡大し、貿易収支がむしろ悪化している。
図表1 アジアの輸出の伸び
- (注)2026年1~5月輸出額の前年同期比
- (出所)各国・地域統計、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成
図表2 アジアの貿易収支
- (注)各年1~5月平均
- (出所)各国・地域統計、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成
AIブームのもとアジア全般に電子機器輸出が拡大も、部材輸入の動きに大きな違い
こうした地域間の違いは、どのような要因によって生じているのだろうか。貿易収支の内訳を詳細に分析すると、地域間の貿易収支を最も強く左右しているのが、電子機器関連の貿易であることがわかる。図表3は2025年と2026年で1~4月の主要品目別貿易収支(電子機器関連、鉱物性燃料、その他品目)を比較したものである1。これをみると、地域間で最も貿易収支の差異が大きいのは、電子機器関連品目であることがわかる2。台湾や韓国、マレーシア、シンガポールでは、電子機器関連の黒字が大幅に拡大している一方、フィリピンやタイ、ベトナムでは、当該品目の収支が横ばいまたは悪化している。
電子機器関連の貿易収支構造にどのような違いがあるか、以下では品目別の詳細データで確認する。図表4は、電子機器の輸出入額を、集積回路、自動データ処理装置、その他電子機器関連品目に分解したものである。まず、貿易黒字が拡大している韓国、台湾、シンガポール、マレーシアでは、集積回路や自動データ処理装置の輸出が増加している。世界的なAIブームのもと、データセンター向けサーバーや半導体の需要が拡大していることを受けた動きと言える3。これらの地域では、集積回路、その他電子機器関連製品(部品など)の輸入も拡大しているが、より付加価値の高いサーバー等製品の輸出拡大が大きく上回った格好だ。
一方、フィリピン、タイ、ベトナムの場合、電子機器関連の輸出は拡大しているものの、部材輸入の拡大幅が大きく、貿易収支が悪化している。ベトナムやタイでは、その他電子機器関連品目(プリント基板や通信機器など)の輸出拡大の裏で、集積回路輸入が大幅に増えていることが確認できる。
フィリピン、タイ、ベトナムで、電子機器輸入が拡大している一因には、国内の電子機器産業における付加価値率の低さがある。図表5は、OECDが発表する付加価値ベースの貿易額データ(TiVA)により、電気・電子部門の輸出における自国由来の付加価値率をみたものである。フィリピン、タイ、ベトナムは、韓国や台湾、シンガポール、マレーシアに比べ、付加価値率が相対的に低いことがみてとれる。こうした地域では、電子機器を生産・輸出していても、その部材となる集積回路や半導体メモリ等を国内で調達できないため、輸出が輸入を誘発しているとみられる4。
図表3 アジアの品目別貿易収支
- (注)フィリピンは各年1~3月、それ以外は各年1~4月の平均。鉱物性燃料はHS27類を対象に集計。電子機器関連は、HS84類の電子機器関連品目(4桁ベース)とHS85類を対象に集計。ベトナムはGlobal Trade AtlasのBOLデータ(船荷証券ベースの貨物データ)を使用しているため、必ずしも図表2のデータとは一致しない
- (出所)各国・地域統計、Global Trade Atlasより、みずほ総合研究所調査部作成
図表4 電子機器関連輸出入額
- (注)フィリピンは各年1~3月、それ以外は各年1~4月の平均。集積回路はHS8542、自動データ処理装置などはHS8471として集計。ベトナムはBOLデータを使用
- (出所)各国・地域統計、Global Trade Atlasより、みずほ総合研究所調査部作成
輸出が好調であっても、一部では財の純輸出が成長に寄与しない可能性
こうした貿易収支の動向は、実質GDP成長率の先行きを見極めるうえで重要な意味を持つ。なぜなら、実質GDP統計では、輸入は控除項目として扱われ、輸入拡大はGDP成長率に対してマイナスの寄与となるからだ。輸出拡大によって輸入が誘発されるとき、輸出によるプラス効果を、輸入によるマイナス効果が相殺する形となる5。実際、2026年1~3月期の実質GDP成長率をみると、タイやフィリピンで、財輸入拡大によるマイナスの寄与が、財輸出によるプラスの寄与を打ち消したことが確認できる(図表6)。
米大手テック企業の旺盛な投資意欲のもと、2026年から2027年にかけてAI関連製品の需要拡大が続く見込みである(諏訪・馬場(2026))。アジアからのAI関連製品輸出についても、当面は好調な推移が続く公算が大きい。ヘッドラインに見える「輸出の好調さ」の陰で、輸入依存型の産業構造が成長の足かせとなるリスクには、今後も警戒が必要である。
図表5 電気・電子部門の輸出における自国由来付加価値率
- (注)データは2022年時点。輸出総額に占める各国由来の付加価値比率を計算したもの
- (出所)OECD TiVAより、みずほ総合研究所調査部作成
図表6 アジアのGDP寄与度分解(前年比)
- (注)ベトナムはGDPの内訳を公表していないため、非掲載
- (出所)各国・地域統計、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成
[参考文献]
諏訪健太・馬場美緒(2026)「AIと経済安全保障が変える米国の成長モデル~成長を支える投資と高齢社会で高まる構造的インフレ圧力~」、みずほ経済インサイト、2026年7月2日
- 貿易データの品目コード(HSコード)をもとに、HS84類の一部品目(4桁ベース)とHS85類の品目から、電子機器関連品目を抽出した。HS84類から抽出した品目は、HS8443、8469、8470、8471、8472、8473、8486である。なお、一部個別品目の抽出においては、生成AIによる分類を参照した。
- 主要な貿易品目のうち鉱物性燃料については、貿易収支の悪化に与えた影響が限定的であったため、本文の解説を割愛している。足元の原油高により輸入価格が上昇したものの、同時に輸入数量が減少したことで、貿易金額の変動が抑制されたとみられる。
- 各国・地域政府などの見解によれば、韓国、台湾、シンガポール、マレーシアの輸出がAIブームによって押し上げられているとされている。韓国の産業通商資源部は、2026年4月の貿易統計のプレスリリースにて、「半導体輸出は319億ドル(前年比+173.5%)に増加し、AIサーバーの持続的な需要がメモリ価格を押し上げた」と述べている。また台湾財政部は、2026年4月の貿易統計について、「世界的なAIブームを背景に、4月の輸出は前年比+40%程度増加した」と説明している。エンタープライズ・シンガポールは4月の貿易統計のプレスリリースにて「電子機器の国内輸出は、AI関連需要を背景に前年比+66.7%増加した」としている。マレーシアも、MATRADE(マレーシア貿易開発公社)が、2026年1~4月輸出について、「マレーシアは、国際的なAIバリューチェーンにおける地位を確立しており、AI関連製品の輸出は前年比+42.9%と319億リンギットに増加し、総輸出の半分以上を占めている」と述べている。
- JETRO(2026)のレポート等によれば、ベトナム等のエレクトロニクス産業が組立加工中心であり、電子部品や集積回路、半導体デバイス等を輸入により調達していることが指摘されている(参考:JETROハノイ事務所(2026)「ベトナムの現状と今後の動向から見る有望産業について」2026年3月)
- 名目でみた貿易収支と、実質でみたGDP上の純輸出との間では、価格変動によって両者の推移に差が生じる可能性がある。本稿の考察においては簡略化のため、価格変更による実質GDPへの影響を考慮していない。
