インフレを背景に、家計の節約志向が高まる
日本のインフレ率は2022年以降に急上昇し、消費者物価指数(CPI)の前年比変化率は一時+4%を超えた。2022~2025年の平均でも前年比+2.9%と、日銀の目標である同+2%を上回っている。
長引く物価高は、「節約志向」の高まりという形で家計の消費行動に影響している。ここでいう節約志向とは、CPIで計測される「標準的な価格」と、家計調査に基づく「実際の購入価格」を比較することで、価格面から家計の節約度合いをみたものだ。同じ種類の品目でも、家計がより割安な商品を買うようになると、家計調査における「実際の購入価格」はCPIの「標準的な価格」を下回る。例えば、購入頻度が高い食品について家計調査とCPIの価格指数を比較すると、2022年以降に家計調査の価格がCPIの価格を継続して下回り、足元では下振れ幅が6.5%まで拡大している(図表1)。
こうした価格指数の差を多くの商品について集計したものが、図表2の節約志向指数だ1。この指数が高いほど、価格面からみた家計の節約志向が高まっていると解釈することができる。データをみると、2022年から2023年前半にかけて、また、2024年後半から足元にかけて、家計の節約志向が高まったことが示唆される。内訳をみると、2022年以降に節約志向指数を主に押し上げているのは食品である。食品は購入頻度が高い必需品であることに加え、他の財・サービスに比べてCPIの価格上昇率が高い状態が続いており、家計が特に食品価格の動向に敏感になっているといえよう。
図表1 家計調査とCPIの食品価格の比較
- (注)12カ月移動平均
- (出所)総務省「消費者物価指数」、「家計調査」より、みずほ総合研究所調査部作成
図表2 節約志向指数の推移
- (注)12カ月移動平均
- (出所)総務省「消費者物価指数」、「家計調査」より、みずほ総合研究所調査部作成
節約志向の高まりに加え、一部の品目では買い控えも発生
次に、価格面の節約志向に加えて、購入数量も考慮した消費金額にどのような影響が生じているか、品目別に確認する。家計調査における消費金額の変化を価格要因と数量要因に分けてみると、インフレが本格化した2022年以降、食品を中心とする非耐久財では購入数量の減少が続いている(図表3)。また、衣料品などの半耐久財でも、2020年のコロナ禍以降に購入数量が減少した状態が続いている。
図表2で示した節約志向指数の上昇は、家計の購入商品が食品を中心に低価格帯へシフトしていることを示唆していた。図表3をみると、そうした価格面の「節約志向」だけでは家計の支出を十分に抑えることができず、食品や衣料品の購入点数を減らしたり、購入を先送りしたりするといった数量面の「買い控え」も同時に発生していることがうかがえる。
一方、耐久財やサービスではそうした買い控えが足元ではみられず、むしろ数量要因がプラスに寄与している。食品を中心に必需品(基礎的消費)が多い非耐久財で購入数量が減少し、選択的支出が多い耐久財やサービスで購入数量が増加しているのは、なぜか2。一因として考えられるのは、価格上昇率の違いである。食品は他の品目に比べて突出して価格上昇率が高いため、消費金額の伸びも大きく、消費者の買い控えを促しやすいとみられる。
図表3 消費金額(品目別)の価格・数量要因分解
- (注)12カ月移動平均
- (出所)総務省「家計調査」より、みずほ総合研究所調査部作成
今後、節約志向や買い控えが消費を下押しする可能性
今後、家計の節約志向や買い控えはさらに強まる可能性がある。2月末以降の中東情勢緊迫化による原油価格の高騰を受け、石油化学関連を中心として様々な商品の値上げが公表されている。こうした物価上振れを中心とする先行きへの懸念は、家計関連の景況感にも影響を及ぼしている。実際、消費者態度指数は3~4月に急激に悪化した(図表4)。足元では持ち直しの動きもみられるものの、水準は依然低い。原油高を起点とするインフレ再燃等への不安が消費者のマインドに表れているようだ。
中東情勢が緊迫化する前の2月時点では、2026年は政府の物価高対策や食品インフレの一服を受けてCPIが前年比+2%前後に落ち着き、実質賃金も改善に向かう見込みであった(井上・池田(2026))。その場合、家計の節約志向も徐々に和らいでいくことが期待されていたが、そうしたシナリオは修正を余儀なくされた格好だ。足元では、米国・イラン間の戦闘終結に向けた合意を受けて原油価格が下落しているものの、既に企業物価段階では、原油高・ナフサ高を背景に石油化学製品関連での価格転嫁が進んでいる。包装材等のコスト増を食品価格等に転嫁するメーカーも徐々に増えてきている状況であり、2026年度後半にかけてインフレ率が再上昇する可能性が高い。
足元の消費は、自動車税(環境性能割)の廃止に伴う自動車購入の増加や、27年度の新省エネ基準導入を見据えたエアコンの買い替え需要が一時的な押し上げ要因になっているが、今後はインフレの再燃により家計の節約志向・買い控え行動が一段と強まりかねない。個人消費はGDPの約半分を占める日本経済の主要な項目だけに、家計の節約行動が消費全体の重石になることが懸念される。
図表4 消費者態度指数の推移
- (出所)内閣府「消費動向調査」より、みずほ総合研究所調査部作成
[参考文献]
安川亮太(2025)「家計の重石となる物価高騰-実質賃金の伸び悩みが消費者マインド改善の足かせに-」、Mizuho RT EXPRESS、2025年3月19日
井上淳、池田亮平(2026)「日本の食品インフレの行方-上昇ペースは鈍化するが、物価押上げ圧力は残存-」、みずほインサイト、2026年1月29日
井上淳(2026)「原油高で再燃するインフレリスク-100ドルの原油価格が続けば4%インフレの懸念-」、みずほインサイト、2026年5月11日
- 消費者物価指数(CPI)と家計調査に共通する非耐久財・半耐久財の91品目それぞれについて、家計調査の価格指数でCPIを除した値を算出し、これをCPIのウエイトで加重平均して作成。ただし、CPIの作成上、品質調整の影響が大きい家電・自動車等の耐久財品目や、サービス品目は節約志向指数の計算対象としておらず、消費全体の節約志向の動向を表しているわけではない点に注意が必要。なお、安川(2025)では家計調査とCPIの前年比系列を比較して節約志向指数を計算していたが、今回は水準系列を比較して計算したため、節約志向指数の形状が異なっている。
- 耐久財については、2024年の自動車不正問題からの出荷回復による自動車購入の増加や、2025年10月のOS切り替えによるパソコン買い替え需要が押し上げた面もあるとみられる。
