みずほ経済EXPRESS

中国経済は供給ショックに耐性

不足は生じずもコスト高で景気下押しリスク

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中東情勢に伴う供給ショックとは無縁のように見える中国のサプライチェーン

中東情勢の緊迫化とホルムズ海峡の封鎖によって、世界経済はエネルギー・原材料の供給ショックに直面した。海峡封鎖後に原油・天然ガスの価格が急騰しただけでなく、特に中東へのエネルギー依存度が高い日本やASEANなどの国・地域において、原油・天然ガスや石油燃料、石油化学原料の供給が不足し、各国の政府・企業は備蓄放出や代替調達、減産などの緊急対応に追われた。一方、世界最大の原油輸入国であり、製造業大国でもある中国からは供給不足や調達難に陥っているといった話が聞こえて来ず、中国のサプライチェーンは今回の供給ショックとは無縁のように見える。

本稿では、中東情勢が中国のエネルギー輸入や物価に与えた影響を確認し、供給ショックに対するサプライチェーンの耐性を評価する。

国内生産が安定供給のバッファーに。ただし、生産財の価格上昇が企業収益を圧迫へ

まず、中国の原油と天然ガスの調達状況を確認する。

中国の原油輸入における中東依存度(2025年)は42%で、イラン産の積み替えとみられているマレーシアとインドネシアからの輸入を加えても56%と、日本の94%と比べて低い水準にとどまっている。中国がかねてより地政学リスクを意識して戦略的に調達先の分散を図ってきたことが背景にあり、中東以外にロシアやアフリカ、カナダ、中南米からも多くを輸入している。それでもホルムズ海峡の封鎖による影響は免れない。事実、中国の原油輸入量は4月に前年比▲20.0%、5月に同▲29.0%と減少している。しかも、最大の輸入元であるロシア(中国の輸入に占めるシェアは17.4%)などへの代替調達が進んでいる様子はうかがえない(図表1)。また、貿易戦争の一時休戦中にある米国からの輸入は2025年6月以降のゼロが続いており、米中協議における原油購入という交渉カードを温存している、あるいは経済安全保障の観点から米国依存を避けていることが分かる。

天然ガスの輸入量は4月に同▲12.9%と減少したが、5月に前年比横ばいまで回復した。図表2のとおり、液化天然ガス(LNG)の輸入が急減したものの、国・地域別輸入量を見ると、足元でマレーシアやカナダからの代替調達が進んでいる様子がうかがえる。加えて、パイプライン輸送によるロシアや中央アジア(カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)からの輸入は、海上輸送の影響を受けないため安定的に推移している。このように、日本とは違ってパイプライン輸送という調達手段がある上に、すでに冬季の暖房需要のピークを過ぎていることを考えると、さらなる代替調達の緊急度は低いといえそうである。

図表1 原油輸入量/国・地域別原油輸入量

  • (注) 中東6カ国は、サウジ、イラク、UAE、オマーン、クウェート、カタール
  • (出所) 中国税関総署、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

図表2 天然ガス輸入量/国・地域別LNG輸入量

  • (注) 国・地域別は、液化天然ガス(LNG)のみの輸入量
  • (出所) 中国税関総署、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

また、調達状況を確認する上で見逃せないのは、中国がエネルギー資源国だということである。輸入量と生産量のデータに基づく筆者の簡易計算によれば、中国の原油生産量(2025年)は輸入を含む供給量全体の27.2%を、天然ガスに至っては60.3%を占めている。図表3のとおり、その生産量は近年、安定的に増加しており、これが安定供給のバッファーとして機能している。米エネルギー情報局(EIA)の推計によると、原油については、2025年末時点で国家備蓄と商業備蓄を合わせて13.97億バレル(約1.9億トン)の備蓄があるとされる。これは国内の年間生産量(約2.16億トン)にほぼ匹敵する規模で、日本の備蓄量(2.63億バレル)をはるかに上回っている。したがって、今回のようなエネルギー調達における供給ショックへの耐性は一定程度、有しているとみてよいだろう。

次に、石油製品の供給状況はどうか。図表4のとおり、原油加工量や石油化学製品の国内生産量は4月に入って減少したが、ナフサとエチレンについては5月に回復している。また、図表5のとおり、ナフサとエチレンの輸入量は4月以降に急減しているが、その国内生産比率がともに95%を超えていることから、輸入急減が国内供給網に与える影響は限定的である。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、中国のエチレン生産は7割がナフサ由来であるが、米国からのエタン輸入によるものが1割、石炭化学によるものが2割を占めており、ナフサの原料制約を一定程度、緩和している。加えて、過剰生産によって在庫が余剰気味であったと考えられること、EVシフトで輸送用燃料の消費量が低下傾向にあること(図表6)などから、中国市場において石油製品の供給不足や調達難といった事態は今のところ生じていない模様である。

図表3 原油・天然ガスの生産量

  • (注) みずほ総合研究所調査部による季節調整値
  • (出所) 中国国家統計局、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

図表4 石油化学製品の生産量

  • (出所) 中国国家統計局、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

図表5 石油化学製品の輸入量

  • (出所) 中国税関総署、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

図表6 輸送用燃料の消費量

  • (注) みずほ総合研究所調査部による季節調整値
  • (出所) 隆衆資訊、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

ただし、供給ショックの影響は国際的な資源価格の高騰を通じて、生産財の価格上昇という形で顕在化している。図表7のとおり、石油化学製品などの流通価格は高止まりしている。とりわけ、中東依存度が高いLNGは2025年末対比で7割超、硫黄を原料とする硫酸は9割超も上昇し、需給がタイト化している様子がうかがえる。なお、中国政府が小売価格の上限規制を設けているガソリンや軽油といった輸送燃料については、激変緩和措置によって価格の上昇幅が抑えられている。裏を返せば、中国の製油所は原油価格の高騰の負担を強いられていることを意味する。実際、燃料小売価格の上昇抑制との板挟みで逆ザヤに陥っていると報道されている。

こうした状況下、デフレ傾向が続いていた生産者物価指数(PPI)は3月に42カ月ぶりのプラス転化となり、5月には前年比+3.9%まで急加速した(図表8)。ただ、足元で上昇しているのは川上の生産財のみで、川下の消費財への波及は見られない。タイムラグもさることながら、中国市場は需要不足で価格競争が激化しており、川下へのコスト転嫁が難しいことが背景にあるとみられる。このまま価格転嫁が進まなければ、企業収益の悪化を通じて景気を下押しするリスクがある点には注意が必要である。

図表7 生産財の流通価格

  • (出所) 中国国家統計局、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

図表8 生産者物価指数(PPI)

  • (出所) 中国国家統計局、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

供給ショックに対して一定の耐性。新興分野の生産拡大が中東影響を打ち返し

上述のとおり、価格が上昇しているものの供給不足には陥っていないことから、中国のサプライチェーンは供給ショックに対して一定の耐性を有していると評価できる。実際、中国の製造業は生産拡大を続けており、供給ショックの影響を打ち返している。特に、供給リスクを受けたグリーントランスフォーメーション(GX)の加速やAIブームを背景に、新エネルギー車(NEV)、半導体、ロボットといった新興分野の生産拡大に勢いがある(図表9)。中国の新たな主力製品である「新三様」(NEV、太陽光パネル、リチウムイオン電池)の輸出は、4月の税制変更を前にした駆け込みの反動で足元減速しているが、今後も高成長が続くとみられる(図表10)。

こうした中国製造業の突出した供給力の強さは、供給ショックを和らげる一方で、別の構造的な問題を生じさせている。国内市場で吸収しきれない余剰分が輸出に向かい、各地で貿易摩擦の火種となりつつあることである。中国の強すぎる供給力と貿易不均衡の拡大は、中国経済の構造転換を通じたリバランスの必要性をあらためて浮き彫りにしている。

図表9 主要工業製品の生産量

  • (注) みずほ総合研究所調査部による季節調整値
  • (出所) 中国国家統計局、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

図表10 「新三様」の輸出金額

  • (出所) 中国税関総署、CEICより、みずほ総合研究所調査部作成

[参考文献]

竹原美佳(2026)「中国石油・石油化学市場の構造転換とバックストップ」JOGMEC(3月25日)

みずほ総合研究所調査部(2026)「2026年・2027年 みずほ世界経済見通し ~供給ショックへの対応とAI投資ブームが共鳴する世界~」(6月30日)

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