「2035年に1人当たりGDPを2020年対比で倍増」の数値目標を初めて明記
中国で第14期全国人民代表大会第4回会議(国会に相当。以下、全人代)が2026年3月5~12日に開催され、今後5年間(2026~30年)の経済社会政策の基本方針に当たる『国民経済および社会発展の第15次五カ年計画綱要』(以下、『計画』)を採択した。『計画』は、今後5年間を2035年の中長期目標である「社会主義現代化の基本的実現」に向けて地固めを行う重要な時期と位置づけ、「2035年までに経済力、科学技術力、国防力、総合国力および国際影響力の大幅な躍進を実現し、1人当たりGDPで中等先進国水準に到達させる」方針を再確認した。
『計画』は、中国共産党が2025年10月の中央委員会第4回全体会議(4中全会)において採択した『国民経済および社会発展の第15次五カ年計画の制定に関する建議』(以下、『建議』)に基づいて策定され、『建議』の提案内容に沿う形で具体的な数値目標や取り組むべき政策を盛り込んだ第15次五カ年計画の基本文書である。『計画』で示された政策方針に基づき、国務院と各省庁、地方政府がそれぞれ所管する分野別、地方別の五カ年計画を策定する運びとなっている。
『計画』は、「2035年に1人当たりGDPを2020年対比で倍増」させる数値目標を初めて明記した。第14次五カ年計画(2021~25年)の『建議』に関する説明において、習近平総書記が「2035年までに経済規模あるいは1人当たり収入の倍増を実現することは、完全に可能」との認識を示してはいたものの、第14次五カ年計画には所得倍増が公式な目標として盛り込まれなかった。『計画』がこれを明記したのは、2021~25年の成長率が年平均+5.2%に達したことを受け、習近平政権が2035年の所得倍増目標達成に自信を深めたためと考えられる。
所得倍増の実現には、2026~35年の10年間に年平均+4.17%以上の成長が必要となるが、『計画』は実質GDP成長率の目標について「合理的なレンジを保持し、各年度に状況を見ながら(具体的な数値を)提出する」としている(図表1)。これまでどおり、毎年開催される全人代でその時点の経済動向を踏まえつつ成長率目標を定める手堅い経済運営を続けるとみられる。それでも、「10年間に年平均+4.17%以上」という数字は、経済政策担当者に対する強いプレッシャーとなろう。
図表1 第15次五カ年計画の主要目標(経済・環境分野)
- (注) 2030年目標は第15次五カ年計画の、2025年目標は第14次五カ年計画の主要目標を指す。
デジタル経済核心産業とは、コンピューター・通信機器製造、ソフトウェア、通信、インターネット、コンテンツなどの分野を指す - (出所) 第15次五カ年計画綱要、国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
産業振興と「自立自強」が最重要戦略。デジタル経済と人口対策の扱いを格上げ
月岡(2025)が指摘しているように、第15次五カ年計画においても「強国」を目指す習近平政権の供給サイド重視は変わっていない。『計画』も、『建議』に沿って「現代的な産業体系の構築」とハイテク技術の「自立自強」を最重要戦略に位置づけている(図表2)。
図表2 第15次五カ年計画の政策方針(『建議』と『計画』の比較)
- (注) 「新質生産力」とは、ハイテク・高効率・高品質を特徴とした先進的な生産力を指す。
「美しい中国」とは、環境保全と経済発展の調和を目指す政策スローガン - (出所) 第15次五カ年計画綱要より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
前者は、対中デリスキングに備えて「産業チェーンの自主コントロール水準を高める」ことが経済安全保障につながるとの認識の下、産業基盤となる技術(新素材、基礎部品・電子部品、基本ソフト・産業用ソフト、工作機械、計測機器、大型技術設備)の向上や新産業(集積回路、エンボディドAI、バイオものづくり、新型電池、宇宙ビジネス、国産大型ジェット機、低空域設備、グリーン水素エネルギー、ブレイン・マシン・インターフェイス、医療機器)の育成を加速させる考えを示している。後者は、米中対立の長期化と先進国による技術封鎖に対抗するため、引き続きハイテク技術の国産化を急ぐ方針である。先進国が知的財産権を擁するコア技術(集積回路、工作機械、計器、基本ソフト、先進材料、バイオモノづくり)においてブレイクスルーを追求するほか、先端技術領域(AI、量子技術、制御核融合、バイオサイエンス・バイオ技術、脳科学・脳型知能、重大疾病の予防治療・創薬、深海・大深度地下・極地探査、深宇宙探査)の研究開発を強化する構えである。
『計画』で特徴的だったのは、「デジタル中国」の建設と人口の「質の高い発展」にそれぞれ一篇を割いたことである(図表2)。前者は、生成AIの飛躍的な進化を踏まえたものとみられ、AIの基盤となる高い演算能力の構築を進めるほか、技術・産業から福祉・社会まで幅広い分野でAIを活用する「AI+(プラス)」アクションを通じて生産方式の「深い変革」と生産力の「革命的躍進」を目指すとしている。後者は、急激に進行する少子高齢化に危機感を強めたものと考えられる。少子化対策では、中国政府が2025年9月に全国ベースで初めてとなる子育て給付金(3歳未満の子供を対象に年3,600元を支給)を創設しているが、『計画』は医療保険による出産費用の実質無償化や弾力的な育児休暇制度の導入、多様な保育サービスの提供を図ることで、「出産育児友好型社会を建設」し、「人口の長期均衡発展を促進」すると強調している。
所得倍増のカギは消費主導型経済への構造転換。地道な改革の着実な進展に注視を
こうした計画が奏功し、中期目標として掲げた所得倍増目標が実現するかどうかは、ひとえに消費主導型経済への構造転換を進めることで経済を安定成長軌道に乗せられるかどうかにかかっている。『計画』は「個人消費の対GDP比率を顕著に向上」させることをうたっているが、それは中国の名目GDPに占める個人消費の割合が主要国に比べて著しく低い39.9%(2024年)にとどまっていることについて、中国政府が問題意識を有していることの証左といえる。
月岡(2026)は、構造転換には社会保障の充実による将来不安の払拭、戸籍差別の解消による人口の都市化、税制改革による所得再分配機能の強化、雇用創出力が高いサービス業の育成が必要であると指摘した。『計画』はこの点、社会保障水準の引き上げや農村人口の都市「市民化」、資本所得課税の導入、サービス業の参入規制緩和といった改革の方向性を示してはいるものの、産業振興策に比べて改革推進の政治・財政上のハードルが高いためもあってか、概して総論にとどまっている印象である。中国経済といえば産業競争力の驚異的な向上ばかりに目が行きがちであるが、消費主導型経済への構造転換に向けた地道な改革が着実に進展しているどうかも注視すべきといえよう。
[参考文献]
月岡直樹(2026)「中国が試される内需拡大の本気度 ~全人代が開催、成長率目標を引き下げ~」Mizuho RT EXPRESS(3月10日)
月岡直樹(2025)「中国の供給サイド重視は変わらず ~第15次五カ年計画の基本方針を決定~」Mizuho RT EXPRESS(11月4日)
